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【政治と医療改革シリーズ3】診療報酬を決めるルールが変わるとき、歯科の院長の日常に何が起きるか  [2026年06月25日]
おはようございます。
歯科医院経営コーチの森脇康博です。
 
私は大阪の開業医団体で30年勤務し、院長の近くで経営と医院づくりを応援したいと独立して13年が経ちます。
このブログでは歯科医院経営とマネジメントに役立つ情報を発信します。
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はじめに

「中医協(中央社会保険医療協議会)」という言葉を、先生はどのくらい意識しているでしょうか。

診療報酬改定のたびに診療報酬体系や点数が変わる。その改定内容は誰かが決めている。その「誰か」が中医協(中央社会保険医療協議会)です。しかし、多くの院長にとって中医協は「自分とは遠い場所にある会議体」という認識で、その構造や力学まで関心を持っている院長は限られています。日本歯科医師会や地方歯科医師会の幹部、政治に近い立場の院長を除けば、中医協の議論を日常的に追いかけている院長はほとんどいないのが実態です。

しかし今、その「遠い場所にある会議体」の設計思想が変わろうとしています。そしてその変化は、院長が気づかないうちに、日常の診療の評価のされ方を変えていきます。今回は、その変化の中身と、院長の日常への影響をお伝えします。

中医協改革の政治的な現実

自民党と日本維新の会の連立合意書には「データに基づく制度設計を実現するための中医協の改革」が明記されています。この背景には、「診療報酬の議論が医師会・歯科医師会の代表者によって左右されすぎている」という批判があります。

しかし、中医協の構成そのものを大きく変えることには、政治的な現実が立ちはだかります。日本医師会は自民党への組織的な選挙支援と政治献金という軸で長年の影響力を持ちます。医系議員は「改革には賛成するが、医師会の委員枠は残す」という落としどころを模索するでしょう。連立を組む側の要求と、自民党内の基盤維持の必要性の間で、改革の深度は調整されていきます。

合理的な予測として、「中医協の人的構成は大きく変わらない」という着地になる可能性が高い。しかし、ここで院長に知っておいてほしいことがあります。中医協の人的構成が変わらなくても、「データが制度設計を変えていく」という別のルートは、粛々と進んでいます。この二つは切り離して理解する必要があります。

「データに基づく制度設計」という流れは止まらない

中医協の委員構成がどう変わろうとも、レセプトデータの分析強化・標準的電子カルテの普及・AI審査の高度化という流れは、医師会・歯科医師会の影響力とは別のルートで進みます。これは政治的な力学ではなく、財政的・技術的な必然として動いているからです。

国はすでに、レセプトデータ(NDBデータ)の分析を通じて、各医療機関の算定パターンを把握し始めています。「歯科疾患管理料を算定しているが、同じ患者の継続来院が確認できない」「口腔機能管理料を算定しているが、関連する記録の整合性が取れない」といった傾向が、統計的に浮かび上がってくる。そこに、保険医療機関の経営データの把握が加わり、医療機関の経営は丸裸にされようとしているのです。データが蓄積されると、財務省は次の改定でその点を根拠として切り込んできます。

標準的電子カルテの普及が進めば、この分析の精度はさらに上がります。現在は紙カルテや各社バラバラの電子カルテの中に埋まっている診療情報が、標準化されたデータとして読み取れるようになる。そのとき、AI(人工知能)が大量のカルテとレセプトを照合し、算定の妥当性を自動的に評価する体制が整います。保険者間のデータの壁も無くなっていくのです。

「無意識的な違反」が検出される時代

ここで先生に率直にお伝えしたいことがあります。

保険算定をするうえで守らなければならないルールは、カルテ記載・資料添付・患者への文書提供・レセプト摘要欄への記載など、項目ごとに詳細に定められています(歯科点数表の解釈・社会保険研究所発行参照)。施設基準の要件、算定要件の解釈、歯科医学会の指針との整合性。これらをすべての算定項目について正確に把握し、日常の診療で完全に守れている医院は、決して多くありません。

問題なのは「守らない」院長が多いのではなく、「詳細にルールを把握していないために、無意識的に違反している」状態の医院が多いということです。これは院長の怠慢ではありません。算定要件の複雑さ、改定のたびに変わる解釈、スタッフへの周知の難しさ。これらが重なった結果として、意図せず違反状態になっているケースが現場には多く存在します。

これまでは、レセプト審査の限界もあって、こうした無意識的な違反が表面化しにくい状況がありました。しかしAIがカルテとレセプトを照合できるようになれば、「算定しているが記録がない」「指導内容がカルテに記載されていない」「患者への文書提供の記録がない」という状態は、自動的に検出されます。適時調査でのクローラー活用が現実になれば、これまで見過ごされてきた無意識的な違反が、AIによる医院の評価に直結する時代が来ます。ヨーロッパではすでに治療成果によって医療機関が評価されランクが決まる国が存在するのです。

アウトカム評価導入への布石

「データに基づく制度設計」が進む先には、アウトカム評価(治療の結果・成果を評価に組み込む仕組み)の導入があります。

現在の診療報酬は、主に「何をしたか(プロセス)」に対して点数が支払われます。歯周病継続支援治療を行った、口腔機能管理を実施した、という行為に対して算定します。しかし、アウトカム評価が導入されると、「その行為の結果として患者の口腔状態がどう変わったか」が評価の軸に加わります。

医科の領域では、アウトカム評価の導入が先行して議論されています。歯科への本格的な導入は医科領域における成果を確認してからになる可能性が高いですが、その準備はすでに始まっています。今回の令和8年改定で進んだ歯周病継続支援治療のフロー整備、口腔機能管理の対象拡大、継続管理の必要性を説明する旨の算定要件への追加。これらはすべて、「何をしたか」の記録から「どんな結果が出たか」の評価への移行準備として読むことができます。

アウトカム評価が導入されたとき、「算定していたが継続管理が機能していなかった」という医院と「継続管理を丁寧に実践して患者の口腔状態の改善実績がある」という医院では、評価が明確に分かれます。その差が生まれる前に、今から診療の質と再評価の仕組み、記録の質を高めておくことが求められます。

院長が今から備えるべきこと

中医協改革の政治的な行方がどうなるかにかかわらず、「データが制度設計を変えていく」という流れに備えて、院長が今から動けることがあります。

一つ目は、青本歯科点数表の解釈・社会保険研究所発行)に基づく算定要件の点検です。自院で算定しているすべての項目について、カルテ記載・資料添付・患者への文書提供・レセプト摘要欄への記載が要件通りに実施されているかを、改めて確認してください。だいたいやっているという感覚的な把握ではなく、項目ごとに確認する作業です。

二つ目は、継続管理の実態を数値で把握することです。歯科疾患管理料・歯周病継続支援治療・口腔機能管理料を算定している患者の継続来院率、中断率、管理の記録の整合性。これらを定期的にデータとして確認する習慣を持つことが、AI審査に対して最も有効な備えになります。

三つ目は、記録の標準化です。カルテに何をどう記載するかを、院内で統一したルールとして整備することです。院長一人の判断ではなく、すべてのスタッフが同じ水準で記録できる仕組みを作ることが、将来の電子カルテ普及とAI評価への対応の土台になります。

まとめ

中医協改革の政治的な現実は、「表向きの改革→実質的には裏での調整」という着地になる可能性が高い。しかし、データが制度設計を変えていくという別のルートは止まりません。

「無意識的な違反」が検出される時代の到来は、算定要件を正確に守っている医院には脅威ではなく、むしろ不公正な競争を是正するチャンスになります。逆に、無意識的な違反が蓄積している医院には、気づいたときには遅いという事態になりかねません。

次回、最終回では、このシリーズ全体を踏まえて、歯科医院が今から何を準備するかを具体的に整理します。

AI時代(フィジカルAIやデジタルインフラ整備も含む)、それは昨日まで不可能と言われたことが可能になり、ゲームチェンジが起こる時代でもあります。

私はクライアント歯科医院のスタッフに生成AIの日常業務での活用方法について話していますが、いままで半日かかっていた事務作業が10分で終了する。そういう事が現実に起こっているのです。

 

先生の医院のこれからを、心から応援しています。

 

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