「人件費が増える=経営が苦しくなる」は正しくない
賃上げを続けるためには収益を増やすしかない、前回そう述べました。では、どうやって収益を増やすのか。その答えは「生産性の向上」にあります。一人当たり、時間当たり、ユニットあたり生産性を高めていくのです。
ここで重要な視点があります。人件費が増えることは、必ずしもマイナスではないということです。即戦力の歯科衛生士を採用できれば、人件費増以上の収益増を実現できます。一列を任せられる歯科衛生士が一人増えることで、院長やドクターの負担が減り、医院全体の生産性が上がります。人件費の増加を「コスト」として見るか、「戦力への投資」として見るか。この視点の違いが、賃上げを続けられる医院とそうでない医院を分けます。
賃金相場の上昇は国の政策である以上、低下することは想像しにくい。特に東京都の最低賃金は2030年頃には1500円に近づくという予測がある。院長はそれを前提として経営戦略と経営計画を立てることが必須なのです。
一人が稼ぎ出す収益を増やす。生産性向上の本質
一人当たり生産性の向上とは、スタッフ一人が稼ぎ出す収益を増やすことです。一般的には稼働時間内により多くの患者を診ると捉えられがちですが、患者数を増やすだけでなく、一患者あたりの単価を上げることも生産性向上につながるのです。
たとえば歯科衛生士がホワイトニングのカウンセリングスキルを身につけると、定期管理の来院時に自然な流れでホワイトニングを提案できるようになります。また、矯正治療について学び、歯並びに悩む患者に先ずは「矯正相談」を受けることを勧めてみる。同じスタッフが複数の価値を提供できるようになることで、一人あたりの収益貢献が広がります。クロスセル(関連サービスの提案)やアップセル(より付加価値の高い治療への誘導)を、押しつけではなく患者への自然な提案として実行できるスタッフが増えると、医院全体の収益構造が変わります。
高付加価値な医院とは、こういう状態
「高付加価値な医院をつくる」というと漠然と聞こえますが、実態はシンプルです。スタッフ一人ひとりが担当患者により多くの価値を提供できる状態をつくることです。
治療の質が高く、コミュニケーションスキルもあり、患者のニーズを引き出せるスタッフが揃った医院では、患者単価が上がり継続来院率が高まります。その結果として売上が増え、賃上げの原資が生まれます。賃上げができるから優秀なスタッフが集まり、スタッフが退職しないことで経験曲線効果が高まり、さらに生産性が上がる。この好循環が回り始めた医院が、高付加価値な医院の正体です。
逆に、採用しても育てられずスタッフが退職していく、スタッフが一つの業務しかこなせない状態では、人件費だけが増えて生産性は変わりません。人を増やすことと、生産性を上げることはイコールではないのです。
院長が今取り組むべき一手
生産性向上のために院長が最初に取り組むべきことは、現在のスタッフ一人あたりの収益貢献を数値で把握することです。歯科衛生士一人あたりの担当患者数、一患者あたりの単価、担当患者の継続来院率。これらを確認することで、どこに生産性向上の余地があるかが見えてきます。もちろん、数値を上げろとハッパをかけるだけではダメです。スタッフの歯科医療従事者マインドと技術や知識を磨いて、その効果を数値で把握しながら質を落とさずに生産性を高める取組みが必要なのです。
賃上げを続けられる医院は、人件費の増加を戦力アップに変えられる医院です。スタッフが成長し、提供できる価値が広がるほど、賃上げと収益拡大が同時に実現できます。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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