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【政治と医療改革シリーズ2】「年間4兆円削減」は絵空事ではない。医療費抑制の具体的な動きを読む  [2026年06月24日]
おはようございます。
歯科医院経営コーチの森脇康博です。
 
私は大阪の開業医団体で30年勤務し、院長の近くで経営と医院づくりを応援したいと独立して13年が経ちます。
このブログでは歯科医院経営とマネジメントに役立つ情報を発信します。
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はじめに

前回、シリーズ1では、自民・維新連立政権という政治の構造変化と、社会保障改革に関する具体的なスケジュールが合意書に明記されていることをお伝えしました。

今回は、その改革が実際にどのような形で動き始めているかを、具体的な政策の動きとともに整理します。

院長の中には「入院費や薬剤費の改革は、歯科には関係ない」と感じる方もいるかもしれません。しかし、医療費抑制の動きが患者の家計と受診行動を変えるとき、その影響は歯科医院にも確実に波及します。直接の影響だけでなく、患者の経済的な余裕や医療への向き合い方が変わることで生じる「見えにくい影響」にこそ、院長は目を向ける必要があります。

【事実】OTC類似薬の保険外し:具体的な品目と負担増の内容

医療費抑制の具体策として最も進んでいるのが、OTC類似薬(市販薬類似薬)の保険給付の見直しです。

OTC類似薬とは、ドラッグストアで買える市販薬と成分・効果がほぼ同じでありながら、医師の処方箋があれば1〜3割の自己負担で入手できる医薬品のことです。政府はこの「保険で買える市販薬類似品」について、患者に追加の負担を求める制度を導入することを決めました。

厚生労働省が示した対象は77成分・約1100品目です。解熱消炎鎮痛剤のロキソプロフェン(ロキソニン)、抗アレルギー薬のフェキソフェナジン(アレグラ)、血行促進・皮膚保湿剤のヘパリン類似物質など、日常診療で広く使われている薬剤が含まれています。これらを処方された患者は、通常の自己負担に加えて薬剤費の25%を「特別の料金」として追加で支払うことになります。たとえば薬剤費が1000円の場合、従来の300円(3割負担)に対して、特別料金250円が加わり合計475円の支払いになります。従来の約1.6倍です。

ただし、子ども・がん患者・難病患者・低所得者・入院患者・医師が医療上必要と判断した場合は対象外とされる方向で設計が進んでいます。2027年3月からの実施を目指して法令整備が進んでおり、その後さらに対象品目の拡大も検討されています。

これは「完全な保険適用除外」ではありませんが、「保険内で患者の実質負担を増やす」という手法の先例として重要な意味を持ちます。今後、同様の手法が他の分野にも拡大する可能性があります。

【事実】応能負担の強化:収入・資産によって負担が変わる方向

医療費の自己負担を「年齢」ではなく「収入・資産」に応じて変える「応能負担」の強化も、連立合意書に明記された改革項目のひとつです。

現在の医療費窓口負担は、75歳以上の後期高齢者は原則1割(一定以上の所得がある場合は2〜3割)、現役世代は3割という構造です。連立合意書には「医療費窓口負担に関する年齢によらない真に公平な応能負担の実現」という項目が入っています。さらに、金融所得(株式の配当や売却益など)を負担割合の算定に含める方向も議論が進んでいます。

この改革が本格的に実施されると、高所得・高資産の高齢者の窓口負担が増え、受診行動に変化が生じる可能性があります。一方で、低所得の患者層は配慮の対象とされていますが、制度の複雑化によって「どの患者がどの負担割合なのか」という把握が医療機関側の負担になる可能性もあります。

【事実】財政効果の実態:4兆円削減への道のりは長い

「年間4兆円削減」という数字がどのくらい現実的かについても、客観的に整理しておきます。

今回のOTC類似薬の保険給付見直しによる財政効果は、医療費ベースで約1880億円減と試算されています。4兆円という目標に対して、一連の改革の初弾でこの規模です。残りの大部分は、後期高齢者の窓口負担の引き上げ・応能負担の強化・医療提供体制の再編・医療DXによる効率化など、より踏み込んだ改革によって積み上げていくことになります。

ある民間シンクタンクでは、「改革の規模は連立政権が掲げる目標よりも小さくなる可能性が高い」と分析されています。自民党と医師会・歯科医師会との関係、世論の反応、低所得者への配慮という制約の中で、改革のスピードと深度は都度調整されながら進みます。

ただし、方向性は変わりませんし、1980年代からの改革の歴史から見ても更なる改革は進むのです。「保険でカバーされる範囲を絞る」「負担を能力に応じて変える」「医療費全体の伸びを抑える」という流れは、少子高齢化と社会保障財政の構造的な問題を背景として、今後も継続します。つまり、改革の流れを読んで保険医療機関も国民も変化に備えることが出来るのかが問われるのです。

【予測】歯科医院への「見えにくい影響」を読む

ここからは、以上の事実をもとにした合理的な予測をお伝えします。

今回の医療費抑制の動きは、歯科医院に直接の制度的変化をもたらすものばかりではありません。しかし、間接的かつ時間差を伴う影響が、院長が気づきにくい形で経営に忍び込んでくる可能性があります。

一つ目は、患者の医療費全体に対する感度の変化です。OTC類似薬への追加負担、高額療養費の自己負担上限の見直し、応能負担の強化。これらが重なると、患者が「医療費がかかる」という感覚を強く持つようになります。その感覚は、歯科医療への支出判断にも影響します。「痛みが取れたら来なくなる」「定期管理より急患対応が増える」という傾向が、医療費負担増を背景として地域によっては強まる可能性があります。

二つ目は、患者の二極化の加速です。今回の改革は、低所得者への配慮を盛り込みながら設計されています。しかし、配慮の対象にならない「中間所得層の下半分」に属する患者にとっては、実質的な医療費負担が増えていく可能性があります。物価高騰が続く中で医療費負担も増えれば、この層の患者は歯科医療への支出をより慎重に判断するようになります。一方、高所得層の患者は応能負担が増えても、必要と感じた医療は受け続けます。結果として、患者が「積極的に歯科医療に価値を見出す層」と「費用対効果を強く意識する層」とに分かれる傾向が強まります。

三つ目は、「保険でカバーされる範囲」への患者の認識変化です。OTC類似薬の保険外しは、患者に「保険でカバーされる医療の範囲が変わっていく」という認識を徐々に植え付けます。この認識が広がると、自費診療の必要性の説明や提案に対する患者の受け取り方が変わる可能性があります。これはプラスにもマイナスにも作用し得ます。「保険でできる限界があることへの理解が進む」という側面と「余計なお金を使いたくないという警戒感が強まる」という側面の両方があります。

まとめ

「年間4兆円削減」は、一度に実現するものではありません。しかし、具体的な政策が動き始めており、その一歩一歩が患者の経済的な余裕と医療への向き合い方を変えていきます。

制度の直接的な変化だけを追っていると、「歯科には関係ない」という判断になりがちです。しかし、患者の家計と行動の変化という間接的な影響は、じわじわと歯科医院の経営数字に現れてきます。その変化を早く認識して経営設計を調整できた院長が、地域の中で生き残り続ける医院を作ることができます。

次回、シリーズ3では、診療報酬を決める仕組みそのものが変わろうとしている「中医協改革」という隠れた急所を掘り下げます。

先生の医院のこれからを、心から応援しています。

 

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