「自費を増やそう」と言うほど、スタッフが動かない理由
ここ数年、経営コストが上昇を続けていることから、自費治療の比率を上げたいと考えられる院長が増えています。しかし「自費を増やそう」という目標をスタッフに伝えるほど、現場が動きにくくなるという傾向があります。
なぜか。売上アップを目的に自費を勧める医院では、スタッフが患者への提案を「売り込み」として感じやすくなるからです。「患者に必要のないものを勧めている」という感覚がスタッフの中に生まれると、提案への躊躇いが生まれ、モチベーションも続きません。自費治療が増えない医院の多くで、この構造が働いているのです。
自費が増える医院は「目的」が違う
一方、自費治療が継続的に増えている医院には共通点があります。院長が真摯に治療技術を磨き、自費治療によって患者の口腔内の問題が改善していく姿をスタッフが日常的に見ていることです。
スタッフが歯科医療従事者として成長し、知識が増えてくると、「保険治療でカバーできる治療品質には限界がある」「自費治療が患者の未来の健康を守る有効な選択肢の一つになる」という側面が見えてきます。「院長は、無差別的ではなく必要な患者に自費治療を提案している」。その確信がスタッフの中に生まれたとき、自費治療の提案への抵抗感が自然に薄れていきます。提案の目的が「売上」から「患者の健康」に変わったとき、スタッフの言葉と態度が変わります。
以前、こんな場面を見ました。院長が患者に治療提案をした時に「年金暮らしなので保険で良いです」と患者は答えました。その時、院長は患者の判断を尊重しながらも「〇の歯は保険でも良いと思いますが、△の歯はお金をかける価値があると思います。その理由は・・・・」と患者にも理解しやすい言葉を選びながら丁寧に説明したのです。すると、患者は「そこまで言って頂けるなら△の歯は自費でお願いします」と答えました。「院長は100%患者の健康を願っている」とその時、私は感じました。スタッフもその院長の姿を見ているのです。
「自費を売るためのスライド」と「患者が治療法を自分で選ぶためのスライド」
治療コーディネーターが患者に自費治療を提案する場面でも、同じ違いが現れます。
売上を目的とする医院では「自費を売るためのスライド」が作られやすくなります。一方、患者の健康を目的とする医院では「患者への丁寧な治療説明と患者が自己決定する為のサポート」を目的としたスライドが作られます。
この違いは患者にも伝わります。「私のために丁寧に説明してくれている」と患者が感じたとき、自費治療の選択肢は押しつけではなく、自分のための情報として受け取られます。院長と治療コーディネーターに「この提案は患者の健康のため」という確信があるかどうかが、患者の受け取り方を決めます。
院長がスタッフに伝えてきた「言葉」が問われる
自費治療が増えるかどうかの根本は、院長がスタッフに自費治療についてどう説明してきたかにあります。
「自費を増やして売上を上げよう」という言葉を使い続けてきた医院と、「保険治療より自費治療の方が口腔内の問題を解決できる可能性が高い患者には自費治療を提案しよう」という話を積み重ねてきた医院では、スタッフの行動がまったく変わります。自費治療が増えない医院の院長は、まずスタッフへの言葉がけ、そして院長の患者への接し方を見直すことから始めてください。
自費治療は「増やすもの」ではなく、「患者が選ぶもの」です。患者が自費治療を選ぶためには、提案する側に確信が必要です。その確信は、院長の日頃の姿勢や言動、スタッフの成長環境を院長が整備し続けてきたか、で決まります。院長が自費を売ることをスタッフに言い続けると、一時的に自費売上は増えていきます(外発的コントロール)。しかし他方で歯科医療従事者としてのマインドはどんどん冷めていく。
一方、患者の健康を願って丁寧に治療説明をし、患者の治療法の選択をサポートしようとする医院では、結果として自費の売上が増えていく。
以前、個別経営相談で訪れた医院で、「院長は外では良いことを言っていますが、スタッフには口を開けば売上と自費のことしか言わないんです」とそっとスタッフから言われたことがあります。
さて、先生は院長としてどちらの道を選ばれますか?
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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