最近、院長からこんな声を聞くことが増えました。
・売上はそこまで落ちていないのに、手元にお金が残らない
・人件費を上げないと採用も定着も難しい
・材料費・技工費・光熱費が静かに効いてきている
そして多くの院長が、こう感じ始めています。
「このまま保険診療中心で、本当にやっていけるのだろうか?」
問題は「売上」ではなく「構造」
まず整理しておきたいのは、今、歯科医院経営で起きている問題は売上の問題ではないということです。
問題の本質は、
・物価は上がり続ける
・人件費も上げざるを得ない
・しかし、保険点数はほとんど上がらない
という構造的なミスマッチです。
これは院長の努力不足でも、経営センスの問題でもありません。
制度設計そのものが、そうなっているのです。
保険診療(治療)は「原価上昇を吸収できない仕組み」
保険診療の最大の特徴は、
・価格を自分で決められない
・コスト上昇を価格転嫁できない
という点です。
一般企業であれば、
・原材料費が上がれば価格改定
・人件費が上がれば付加価値で回収
という選択ができます。
しかし保険医療機関は、「コストが上がっても、価格は据え置き」という世界で経営を続けなければならない。
この状態が長く続けば、どんなに真面目に診療していても、利益率は確実に削られていきます。
令和8年の改定で診療報酬は引きあがられますが、3.09%のうちの1.70%は賃上げ分。
つまり、院長が賃上げ分を吸収できる収益構造を作り続けなければ「公的賃上げ」は医院経営の首を絞めることになるのです。
もちろん、賃上げが出来ない歯科医院は採用面で今まで以上に苦労することになっていきます。
「何とかなる」は、もう通用しない
これまでは、
・診療時間を延ばす
・予約を詰めて入れる
・急患を断らない
・院長が多くの患者を診る(1列⇒2列等)
ことで何とか収支のバランスを取れていた医院も多かったでしょう。
しかし今は、
・スタッフは長時間労働を望まないし有給休暇を取りたい
・ライフイベント後に戻れない医院に人は集まらない
・採用市場は完全に売り手
・院長自身も体力的に限界がある
・労働環境を充実させないとスタッフが退職していく
・遣り甲斐を求めるスタッフは成長環境がある医院を選ぶ
という時代です。
つまり、効率化と努力量で経営面をカバーする経営は、限界を迎えているということです。
「保険か自費か」という二択ではない
ここで誤解してほしくないのは、「保険診療よりも自費を強化するべきだ」と言いたいわけではありません。
問題は、
・保険診療だけに依存していないか
・保険でも収益性が低い治療にウエイトを置いていないか
・患者が継続来院する為に保険診療を「どう設計しているか」
・院長がパノラマを指さし治療説明をしていないか
です。
同じ保険診療中心の医院でも、
・管理・継続を軸に、患者の「納得」を得られる設計になっている医院(限界利益率が高い)
・新患確保と治療の回転、院長の売上で成り立っている医院(変動費が高い)
では、経営の安定度が大きく違います。
これからの保険診療の正解は、すでに国から出されている
国はここ数年、一貫して次の方向を示しています。
・治療中心 → 管理・重症化予防中心
・単発対応 → 継続的関与
・個別完結 → 多職種・地域連携
つまり、
「診て終わりの医療」には、報酬を多く配分しないというメッセージです。
この流れの中で、従来型の保険診療モデルのままで収支を維持し続ける難易度が上がっていきます。
最後に
・先生の医院は、保険診療の中のどこで利益を生み出していますか?
・売上5000万円以下、1憶円以下、1.5億~3億円、4億円~10億円、10億円以上、によって収益モデルの正しい設計方法が違いますが、先生の医院の売上規模で収益を改善する方法をご存じでしょうか?
・先生の医院の収益モデルは、物価や人件費が上がっても、医院を支え続けられる設計になっていますか?
・「忙しさ」「品質」と「利益」が、きちんと結びついていますか?
・歯科衛生士の生産性は医院によって大きな差がありますが、先生の医院では施術や指導の品質を落とさずに生産性を上げることが出来ていますか?
・分院展開は戦略的におこなう必要がありますが、先生の分院それぞれの収益性はどれ位で、法人全体のブランド価値や収益性を高める存在になっていますか?
まとめ
物価高・人件費高騰時代において、「保険診療だけで成立するか?」という問いは、
「今の保険診療のやり方で成立するか?」という問いに置き換える必要があります。
現段階では、保険診療でも設計を間違えなければ収益性を高めることが出来るからです。
制度は変えられません。環境も、元には戻りません。
変えられるのは、院長の視点と医院設計だけです。
この問いにどう向き合うかが、2026年以降の医院の明暗を分けていく。
私はそう感じています。
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