技術力や最新設備ではなく、患者の記憶の中にどんな医院として残るか。
そこに、リピート率を左右する大きな違いがあります。
患者は「治療の出来」ではなく「印象の記憶」で医院を判断する
行動経済学には「ピーク・エンドの法則」という考え方があります。
人は、ある体験を「最も印象的な瞬間(ピーク)」と「最後の瞬間(エンド)」で記憶する、という法則です。
歯科医院でもこれは同じです。
患者は「痛みがなくなった瞬間」や「スタッフに笑顔で声をかけてもらった瞬間」など、
感情の動いた“ピーク”と、帰る時の“最後の印象”で医院全体を評価します。
だからこそ、
治療を丁寧にするだけでなく、「印象を設計すること」も経営の一部なのです。
「また来たい」と思う医院は“感情を大切にしている”
患者が「また来よう」と思う理由は、
「虫歯を治してもらえたから」ではなく「ここなら安心できる」「自分を大切に扱ってもらえた」と感じたからです。
つまり、信頼や安心といった感情的価値が再来院の動機になるのです。
たとえば.
・前回Pulで治療を受けた患者が来院した時に「〇〇さん、前回の治療後に痛みは出ました?大丈夫でしたか?」と心配して声をかける
・治療後に「今日は〇〇まで進みました。次は〇〇をしていきましょう」と伝える
・エプロンを外す時に「お疲れさまでした、○○さん、だいぶ良くなってきましたね」と声をかける
・帰り際に「何か気になることがあれば私に言うか、いつでもお電話ください」と安心感を与える
患者に安心して治療を受けて欲しいと考えているスタッフからは自然と患者を心配したり励まそうとする言葉が出てきます。
こうした何気ない一言が、患者の心に“記憶の残像”として残ります。
感情を理解し、良好な関係を築くための「心理学的視点」
心理学とは、相手を理解し、信頼関係を築くための学問です。
「患者を動かす」のではなく、「患者の心を理解し寄り添う」ことが目的です。
歯科医院でこれを実践するには、次の3つの姿勢が大切です。
① 相手の「不安」を想定して寄り添う
初診患者は「痛いかな」「怒られないかな」「費用が不安」といった感情を抱えています。
心理的安全を感じる前に説明が始まると、治療内容も頭に入りません。
→ 先に不安を受け止め、心を開く環境をつくることが大切です。
② 「安心」「理解」「共感」を意識したコミュニケーション
安心とは、“相手が自分を理解してくれている”と感じること。
理解とは、“相手の立場で物事を見ようとしてくれる”こと。
共感とは、“気持ちに寄り添ってくれる”こと。
これら3つの積み重ねが「信頼」を生みます。
③ スタッフ同士でも“安心の記憶”を設計する
院内の空気は患者に伝わります。
スタッフ同士が感謝を伝え合う医院は、自然と「温度のある対応」が生まれます。
心理的安全性の高い職場ほど、患者のリピート率も高くなるのです。
“印象設計”を実践するためのチェックリスト
チェック項目 |
Yes / No |
治療中よりも「最初と最後」の印象を意識して対応しているか |
|
初診患者の不安を聞き出す時間を意図的に設けているか |
|
「説明」よりも「安心」を優先してコミュニケーションしているか |
|
会計時やお見送り時にスタッフが患者に一言添えているか |
|
院内で「ありがとう」「助かりました」など感謝が交わされているか |
チェックが3つ以上「No」であれば、
医院の「ピーク」や「エンド」が患者の記憶に残りづらい状態です。
まとめ:患者の心に残る“温度のある医院”をつくる
患者は、治療内容の細部までは覚えていません。
しかし、「どんな気持ちになったか」「痛かったか」「ドクターやスタッフは優しかったか」は確実に覚えています。
歯科医院経営とは、
「人の行動を変える」ことではなく、「人の心を理解し支える」こと。
患者が“また来たい”と思う医院は、
技術だけでなく「心理的な安心」を提供しているのです。
これらは患者を「視点変換」と「行動変容」によって健康に導く為の欠かせないベースとなるのです。
ひとこと
心理学や行動経済学は“人を動かすための武器”ではありません。
それは、相手の心を理解し、より良い選択を支えるためのレンズです。
「人を操作する経営」ではなく、
「人を理解して支える経営」へ。
それが、これからの“人間中心の歯科経営”だと思います。
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