はじめに
診療報酬改定の数値は、院長先生の医院経営に直結する大切な指標です。
ただ「上がった」「下がった」と受け取るのではなく、改定率を冷静に読み解き、自院の経営にどう反映させるかが問われています。
過去10年の歯科診療報酬改定率(抜粋)
・2014年度(平成26年度)
歯科本体:+0.99%
(全体改定は+0.73%のプラス改定)
・2016年度(平成28年度)
歯科本体:+0.61%
(全体改定は+0.49%のプラス改定)
・2024年度(令和6年度)
歯科本体:+0.57%
(全体改定:本体+0.88%、薬価等▲1.00% → ネット▲0.12%)
歯科本体は一貫してプラスですが、全体ではマイナス圧力が強く、トータルで見れば厳しい環境です。
現在は歯科衛生士枠を増やす定期管理型の収益性が高いのですが、今後の改定ではそこにも手が加えられていく予定です。
数字が意味するもの
1.診療報酬のプラス幅は小さい
+0.5〜1%の改定は「人件費や物価高騰を吸収するには不十分」。
最低賃金の上昇(2025年は全国平均1121円)を考えれば、診療報酬だけに依存する経営は危険です。
2.固定費が高い医院は保険診療一本足では限界がある
「かかりつけ歯科医機能」や「予防・管理」の評価が広がっているとはいえ、医院経営全体を支えるには弱い。
3.自院の収益構造を再点検する必要がある
改定率に一喜一憂するのではなく、総合的な収益改善が不可欠です。
保険診療中心でも現在は問題なく固定費をカバーする売上をあげておられるでしょう。
しかし採用面を考えると賃金を上げていく必要がありますし、物価、そして社会保険料などの雇用主負担も上昇していく。
だからそのまま放置すると未来投資に使う資金が確保できなくなっていくと思うのです。
特にう蝕治療需要が早い段階で縮小していく地域では注意が必要です。
院長が取るべき3つの経営アクション
1.数値を経営に落とし込む習慣を持つ
「今年の改定率はいくら?」で止まらず、
・経営コストのアップで利益がどれ位圧縮されるのか?
・経営コストののアップ分を何でカバーするのか?
をシミュレーションしましょう。
2.自費診療の基盤を強化する
・ドクター毎に得意な治療技術をさらに磨く
・補綴物や審美だけでなく、予防・管理も「自費の選択肢」を設ける
・カウンセリングや治療コンサルの仕組みを強化する
・スタッフが自信を持って説明できる教育体制を整える
※経営の為に自費を勧めるという感覚をスタッフが持てば上手くいきません。あくまでも患者にとっての利益であるとスタッフが確信を持てる仕組みが必要です。
3.効率化・DXの活用
・予約システム等を活用しキャンセル率と治療(施術)中断率を下げる
・口腔管理データをデジタルで一元化
・事務作業の省力化(AI活用)でスタッフの時間を患者対応に振り分ける
まとめ
2014年+0.99%、2016年+0.61%、2024年+0.57%。
数字だけを見れば「プラス改定」です。
しかし現実は、最低賃金・物価上昇がそれをはるかに上回り、医院経営を圧迫しています。
院長がすべきことは、「国にもっと点数を」と期待することではなく、 自院の経営力を高め、どんな改定でも対応できる体制をつくること です。
医療改革は2030~2034年頃に2040年に向けた一つ目のヤマ場を迎えます。
2026年と2028年の診療報酬改定はそこに向けた準備期でもあるのですが、今後の診療報酬改定に対応できる院長は少ないだろうなと思うのです。
「口管強基準」でさえ取得率が低いので、まだ取得されていない方は取得して活用できるようにしてくださいね。