歯科医院も「二重のコスト上昇」に直面する時代
テレビで「また値上げ」というニュースを見るのは、もはや日常になりました。
さらに2025年には全国加重平均で 最低賃金が1121円 に到達し、すべての都道府県で時給1000円を超えることになります(それでも先進国最低水準)。
このペースでいけば、2030年頃には東京などの大都市部で1500円を突破 することは確実視されています。
しかしこれは「最低賃金」です。
実際に人材を確保しようとすれば、それ以上の時給を提示しなければ採用は困難です。
つまり歯科医院経営は、
・物価の上昇(材料費・光熱費・委託費など)
・賃金相場の上昇(人件費)
という 二重のコスト上昇 に直面しているのです。
診療報酬でカバーできるのか?
「では、その分を国が診療報酬で補ってくれるのか?」
残念ながら、その可能性は極めて低いのが現実です。
厚労省の資料を見ても、過去の改定率はプラスマイナス1%程度の範囲で推移しており、人件費や物価上昇率とは大きな乖離があります。しかも、昨年の改定では予算が主にベースアップ評価料に配分された。
既存の技術評価に使われる予算も少なく、来年の改定でも地域包括ケアシステムの完成やデジタル化に必要な項目に改定予算が使われる可能性が高い。
日本の保険制度はいままで保険医療機関の安定経営に寄与してきましたが、コストの急激な上昇を自然にカバーしてくれる可能性は低いのです。
経営感覚の遅れがリスクになる
問題は、まだこのリスクを十分に理解されていない院長が多いということ。
経営に必要な数値(損益分岐点比率、一人当たり生産性、キャッシュフロー計算書等)を把握していない医院では、対策が遅れがちなので注意が必要です。
さらに開業費は驚くほど高騰しており、設備費の高騰と併せて開業後に経営を軌道にのせるハードルも上がっている。開業されている院長も「ユニット増設」「増床」「修繕」「設備更新」などで影響を受けますので他人事ではないのです。
また、大都市部など地域によってはテナント家賃の上昇も考えられますので、人件費を含むそれらのコスト上昇を含めて3年後にどれだけの収益を確保する必要があるのかを概算で出して経営対策をおこなう必要があるのです。
今、院長が意識すべきこと
まずは「危機を数字で理解する」ことです。
例えば…
・最低賃金が1500円になった時、自院の人件費率はどうなるのか?
・光熱費や材料費がさらに10%上がったら、利益はどれだけ削られるのか?
このシミュレーションをしていない医院は要注意です。
そして院長が取組むべきは「収益性の改善」につきる。
コストを1万円投下して得られる利益額を今より増やすにはどうすれば良いのかを考えて実践する必要があるのです。
経営対策と言うと更にコストを使う院長がおられますが、多くの場合はコスト倒れになります。だから、すでに投下しているコストでレバレッジを効かせる方法からお考え頂きたいのです。
まとめ
・2025年:最低賃金1121円 → 2030年には大都市部で1500円時代へ
・物価と人件費の二重上昇は、保険診療の報酬ではカバーできない
・感覚ではなく数字で把握し、早めに戦略を立てる必要がある
このシリーズでは、
次回以降「診療報酬ではコストをカバーできない構造」「経営数値の見える化」「収益性を高める戦略」へと具体的に踏み込んでいきます。
さて先生の医院では、最低賃金1500円時代に耐えられる体制 を想像できていますか?
次回(第2回)は
「診療報酬ではカバーできない?保険医療機関の収益構造の限界」 をお届けします。
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