「チーフを置けばチームがまとまる」は思い込みである
医院が大きくなり、院長一人でスタッフ全員をまとめることが難しくなると、チーフを置こうという発想が生まれます。しかし、チーフという役職を設けるだけではチームはまとまりません。誰をチーフにするか、どんな権限を渡すか、どう育てるか・・・。この設計なしに「チーフを置く」だけでは、機能しないチーフが生まれるだけです。
前章でお伝えした通り、チーフを立てた後も院長が全部決める「二重権限」の状態になっている医院は少なくありません。チーフはいるが形だけで、スタッフは結局院長の指示を仰ぐ。この状態では、チーフを置いた意味がありません。
機能するチーフをつくるには、役職を与える前の設計が重要です。
チーフ候補の行動特性がリーダーシップのスタイルを決める
チーフ候補を選ぶとき、多くの院長は「臨床技術が高い」「経験年数が長い」「真面目で責任感がある」という観点で評価します。しかしこれだけでは不十分です。チーフとしてチームを動かすためには、リーダーとして機能できる行動特性を持っているかどうかが重要になります。
MBTI、TA、PCM心理学、ソーシャルスタイルといった行動特性の分析が示すように、人によってリーダーシップの発揮の仕方は異なります。論理的に状況を整理し、明確な指示でチームを動かすことが得意なタイプ。スタッフ一人ひとりの気持ちに寄り添いながら、関係性の中でチームをまとめていくタイプ。全体の目標を熱量で引っ張っていくタイプ。状況を観察しながら最適な調整を行うタイプ。それぞれが異なるリーダーシップを自然に使います。
院長がイメージする組織の形に近づくためには、どの行動特性を持つスタッフをチーフにするかを意識的に選ぶ必要があります。たとえば、院長がトップダウンで方針を示し、チーフがそれをスタッフに落とし込む役割を担ってほしいなら、指示を正確に実行できる特性を持つ人材が向いています(トップダウンは上手くいきませんが)。一方、スタッフが自律的に動く組織を目指すなら、サーバント型(スタッフの力を引き出すことを優先するリーダーシップ)の特性を持つ人材の方が機能しやすい。
チーフ候補がどんなリーダーシップを自然に発揮できるかを見極めた上で、その特性を活かせる役割を設計することが、チーフ育成の出発点です。
チーフを「一人に絞る」必要はない・ 三つの組織形態
チーフの設計において、私が院長に提案する組織形態は大きく三つあります。医院の経営資源とチーフ候補の状況によって、どの形態が最も機能するかは異なります。
一つ目は「一人のチーフによる組織」です。チームをまとめる力と判断力を兼ね備えた人材がいる場合に有効です。ただしこの形態は、そのチーフへの依存度が高くなるというリスクがあります。チーフが産休・育休・退職などで不在になったとき、組織が機能しなくなる可能性があります。だからこそ、次世代のチーフ候補を常に計画的に育てておく必要があります。
二つ目は「スモール権限(限定的な権限)による組織」です。チーフ候補はいるが、まだ大きなチームをまとめる準備ができていない場合に有効です。たとえば担当できる役割を絞る、管轄するスタッフの人数を少人数に限定する、判断できる事項のエリアを決めておく。こうした形でチーフ候補が扱える権限を意図的に限定します。経験を積みながら徐々に権限を広げていくことで、チーフ候補が無理なく育っていきます。
三つ目は「複数のチーフ候補による集団指導体制」です。一人のチーフに大きな権限を集中させるのではなく、複数のチーフ候補がそれぞれ異なる役割を担い、協議しながらチーム運営を行う形です。特に、ライフイベント(産休・育休・子育て期)でスタッフが一時的に抜けやすい歯科医院では、一人のチーフへの依存度を下げることがリスク管理になります。複数の候補者が協議しながら運営することで、一人が抜けても組織が止まらない体制をつくれます。
先生の医院のチーフ候補の状況と、目指す組織の形を照らし合わせて、どの形態が最も現実的かを考えてみてください。
チーフに渡す権限を明確に設計する
チーフを選んだ後に最も重要なのが、権限の設計です。チーフが「自分は何を決めていいか」を明確に理解していなければ、チーフは動けません。逆に院長が「ここまではチーフに任せる」という範囲を明確にしていなければ、院長は無意識にチーフの領域に口を出し続けます。
権限の設計には、少なくとも三つを明確にする必要があります。
一つ目は「チーフが単独で判断してよい事項」です。日常の業務管理、スタッフへの指示、簡単なトラブルへの初期対応。これらはチーフが院長に確認なく動いてよい領域です。
二つ目は「チーフが院長に相談した上で判断する事項」です。スタッフへの注意や指導、予算に関わる決定、通常外の対応。これらはチーフが主体的に提案し、院長と協議した上で進める領域です。
三つ目は「院長が判断する事項」です。採用・退職、大きな方針の変更、設備投資。これらは院長が最終判断する領域です。チーフに意見を求めることはあっても、最初の段階では決定権は院長が持ちます。
※採用などの権限はチーフが育てば手渡すことが出来ますし、他の権限も権限を分割するなどして手渡すことは可能です。
この三区分を言語化しておくことで、チーフは「ここまでは自分が動いていい」という確信を持って行動できます。そして院長はチーフが担う領域への口出しを意識的に控えることができます。
チーフを育てるのは、時間をかけた関わりの積み重ね
チーフの育成は、役職を与えた瞬間に始まるものではありません。チーフ候補として見えてきた段階から、意図的な関わりを始めることが重要です。
具体的には、まず院長が行っている業務の一部を「一緒にやる」経験から始めます。スタッフへのフィードバックの場面に同席させる、採用面接に同席させる、月次の数字の確認を一緒に行う。こうした経験を積ませることで、チーフ候補は「院長がどう考えて判断しているか」を学んでいきます。
次に、小さな役割から任せ、その結果について院長と振り返る機会をつくります。うまくいったことだけでなく、うまくいかなかったことについて「なぜそうなったか」「次はどうするか」を一緒に考える場が、チーフ候補の判断力を育てます(相談相手ができると院長のメンタルは安定しやすいです)。
そして徐々に任せる範囲を広げ、院長への相談なしに動ける領域を増やしていく。このプロセスに近道はありません。時間をかけた関わりの積み重ねが、本当に機能するチーフをつくります。
先生の医院のチーフ候補は今、どんな経験を積んでいますか。院長が意図してその経験を設計していますか。
まとめ
機能するチーフをつくるためには、役職を与える前の設計が重要です。チーフ候補の行動特性を理解し、その特性が活きる組織形態を選ぶ。一人のチーフに集中させるか、スモール権限で育てるか、集団指導体制にするか。医院の状況に合った形を選ぶことが、組織を機能させる鍵です。
そして権限の範囲を言語化し、チーフが「ここまでは自分が動いていい」という確信を持てる環境をつくること。時間をかけた関わりを通じて、チーフ候補の判断力を育てていくこと。これがチーフ育成の本質です。
次章では、スタッフの声を経営に活かすための個人面談の仕組みをお伝えします。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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