はじめに
2026年6月1日、令和8年度診療報酬改定がスタートしました。
毎回の改定がそうであるように、「スタート初日に何項目対応できているか」は、その医院が日頃から経営をどれだけ戦略的に捉えているかを測る、ひとつのバロメーターです。
今回の改定は、点数の増減という表面的な変化だけを見ていると本質を見誤ります。国が今回の改定全体を通じて打ち出しているメッセージは、「治療の質を評価する」「連携を評価する」「標準化とデータ活用を加速する」という三本柱に集約されます。
先生の医院では、この三本柱を意識した準備ができていたでしょうか。
歯周病継続支援治療の再編:「点数が下がった」で止まっていないか
今回の改定で最も現場への影響が大きいのは、歯周病継続支援治療(SPT)の再編です。SPT・P重防の統合・再編にともない、特に20歯未満の区分で点数が引き下げられたことを受けて、「減点された」という声が多く聞かれます。
しかし、この捉え方は半分しか正しくありません。
20歯未満の患者さんとはどのような口腔内状態でしょうか。歯の本数が少ないということは、う蝕管理・義歯管理・口腔機能管理・生活習慣病連携管理・栄養サポートなど、SPT以外にも並行して対応すべき治療・管理・指導の課題が多く存在するはずです。国は一律ではなく患者個々の状態に合わせた対応を求めていますので、これからの歯科医療はパーソナルな対応ができる歯科医院が評価されていく。「日本歯科医学会が令和8年3月(実際には5月頃)に示した各種指針」は読まれましたか?そこに今後の歯科医院経営へのヒントが眠っているのでお読み頂ければと思います。ちなみに歯周病治療の流れも変更されています。
歯科医院には、SPTに合わせて、エナメル質初期う蝕・根面う蝕等のC管理、口腔機能管理、さらに糖尿病患者への重症化予防連携強化加算をどう組み合わせていくかという設計が問われています。これらは点数を積み上げるための手段であるのと同時に、患者さんの全身の健康を守ることに直結します。
訪問歯科:「数より質」の方向性がさらに明確になった
訪問歯科の領域でも、今回の改定は国の意図を明確に示しています。
歯科訪問診療料は、多職種連携を実践しながら訪問医療に真剣に取り組む医院、すなわち訪問診療料1もしっかり算定している医院の評価を手厚くし、一方で質を犠牲にして件数をこなす医院への評価は厳しくなる方向性がさらに鮮明になりました。
歯科衛生士による訪問歯科衛生指導についても、単一建物で10人以上の場合は点数が引き下げられ、15人という上限も新たに設けられました。これは「同一施設での大量処理」を抑制するメッセージと読み取ることができます。
本来の訪問歯科が持つ役割、すなわち多職種と連携しながら患者一人ひとりの口腔機能を支え、全身状態の維持に貢献するという姿に、制度が近づいていっています。先生の医院が訪問歯科に取り組んでいる、あるいは今後展開を考えているのであれば、「どれだけ丁寧にやれているか」「連携できているか」が評価の分岐点になります。NST4が新設されたことで、今後、歯科衛生性の活躍の場が更に拡がるでしょう。訪問診療1に対して歯援診1や支援病の加算が優遇されたのも今後の改定の行方を明示していると感じます。
算定要件の簡素化と標準化の加速:国が着々と準備していること
今回の改定では、複雑だった算定要件が簡素化・整理される項目が目立ちました。一見すると「使いやすくなった」という印象を受けますが、もう一段深く読むと、別の意図が見えてきます。
それは、標準型電子カルテの普及を見据えた「データ処理のしやすさ」への準備です。
今回新設された電子的歯科診療情報連携体制整備加算は、歯科診療情報を電子的に連携する体制を整備した医院への評価です。点数単体の大きさよりも、「歯科医療機関間でのデータ連携を標準化していく」という国の方向性を示す加算として位置づけるべきでしょう。
算定要件の簡素化と情報連携の標準化が同時に進むということは、将来的にAIがレセプトデータを解析し、治療内容やアウトカムを自動的に評価する環境が整いつつあることを意味します。「どんな治療をして、どんな結果が出たか」が数値として可視化される時代に向けて、国は着実に布石を打っています。
この流れを単なる「IT化の推進」と捉えていると、数年後に大きなギャップが生じます。カルテの記載内容が、そのまま医院の治療品質の評価に直結する時代が近づいています。
まとめ
今回の改定で対応できた項目が何項目あったかを数えることよりも、国が今回示した設計思想を読み解けて対応できているかどうかのほうが、経営上ははるかに重要です。
「質の評価」「連携の評価」「標準化とデータ活用の加速」という三本柱は、今後も一貫して強化されていく方向性です。歯周病継続支援治療のフロー構築、訪問歯科の質の担保、そして電子的な情報連携への対応は、それぞれ独立した課題ではなく、この設計思想の中でひとつにつながっています。
診療報酬改定を「点数の増減チェック」で終わらせず、「国が医療提供体制をどの方向に誘導しようとしているか」を読む習慣が、これからの歯科医院経営には不可欠です。
例えば、今回の改定で「歯科疾患管理料」の算定時に「継続的に管理することの大切さを患者に説明する」という要件が加わったのも、SPTを中断してSRPなどに移行する場合にレセプトの摘要欄への説明記載が加わったのも次回改定に向けた布石なのです。
3カ月後、先生の医院の今回の改定対応の状況を振り返りながら、「自院の設計を見直す機会」を設けて頂きたいと思います。私も改定内容の解説本は継続して読んでいます。何故なら、改定内容には次回改定に繋がる「爆弾」が埋め込まれているからです。今回の改定で何項目対応できたのかも大切ですが次回改定に繋がる意図を見抜いて準備していくことはもっと重要です。院長は経営者でもあるので、「新点数に対応したら終わり」では医院の未来を切り拓けないのです。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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