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【患者が逃げ出す医院、患者が集まる医院/シリーズ第2回】診療室の中で、患者は何を見て何を感じているのか?  [2026年06月10日]
おはようございます。
歯科医院経営コーチの森脇康博です。
 
私は大阪の開業医団体で30年勤務し、院長の近くで経営と医院づくりを応援したいと独立して13年が経ちます。
このブログでは歯科医院経営とマネジメントに役立つ情報を発信します。
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はじめに

患者が歯科医院を評価するとき、治療の技術的な質を直接判断できる患者はほとんどいません。根管治療の精度、補綴物の適合性、歯周治療の品質。これらは専門家でなければ評価できません。

では患者は何を見ているのか。院長の人柄、診療室の雰囲気、スタッフの対応、院内の清潔さ、丁寧な説明、自分がどのように扱われているか。こうした「感覚的な体験」の積み重ねが、患者の「この医院に通い続けたい」「もう来たくない」という判断を形成しています。

前回、シリーズ1では、患者が黙って去る構造とそのメカニズムをお伝えしました。今回は、実際に患者が「もう来たくない」と感じる診療室の中の場面を、具体的に掘り下げます。心当たりのある場面があれば、ぜひ自院の改善のヒントとして受け取ってください。

主訴と違う歯を治療された

ネットの口コミに頻繁に登場する不満のひとつが、「痛い歯を伝えたのに、なぜか別の歯を治療された」というものです。

院長の立場から見れば、これは多くの場合、患者が訴えた歯よりも別の歯のほうが治療の優先度が高かったからです。歯科医師は患者の口腔全体の状態を診て、医学的に適切な順序で治療を進めようとしています。患者の訴えに応えるだけの治療ではなく、口腔の健康を守る専門家として判断した結果です。

しかし、その判断がどれほど正しくても、事前に説明がなければインフォームドコンセントの原則に反します。患者は「なぜこの歯を治療するのか」を理解していないまま治療を受け、「自分の訴えが無視された」という感覚を持ちます。歯科医師が患者のために真剣に判断しているにもかかわらず、その思いが伝わらないのは、医院にとっても患者にとっても残念なことです。

この問題を解決する鍵を握っているのが、治療コーディネーターです。治療コーディネーターの本質的な役割は、歯科医師と患者の仲を取り持ち、患者が納得した上で治療を受けられるように橋渡しをすることです。

レベルの高い治療コーディネーターは、患者の価値観や感情の流れに沿いながら話を進めます。「〇〇さんが希望される”再治療になる確率を減らす”を実現するには、まずこの歯から治療することが必要です」「その理由は・・・」という説明ひとつで、患者の受け取り方は大きく変わります。患者が「大切に扱われている」という感覚を持てるかどうか。それが、治療への納得と継続来院の分岐点になります。

院長がスタッフを叱責する

患者がいる診療室で、院長がスタッフを叱る。これが患者にとってどれほど不快な体験かを、院長自身が気づいていないケースがあります。

歯科医師は治療に集中しています。その集中の中でスタッフがミスをすると、怒りの感情が反射的に出てしまいます。その感情自体は人間として理解できますが態度に出してはいけません。しかも患者の立場から見れば、自分が治療を受けているその場で、スタッフが叱られる場面を目撃することになります。「不快な思いをした」という患者の感想は、決して珍しいものではありません。

スタッフが間違いを犯したとき、院長に求められるのは「行動の修正依頼」です。何が問題で、どう直してほしいかを伝えること(診療終了後に)。しかし実際には、行動への指摘を超えて人格を否定するような言い方になってしまう院長もいます。叱られたスタッフは委縮しますし、その後の診療室全体がピリつく。

ここで見落とされやすいのは、直接叱責されていないスタッフへの影響です。叱責を目撃したスタッフは「次は自分かもしれない」という緊張を常に抱えながら働くようになります。その緊張は表情に出ます。言葉に出ます。患者はその空気を敏感に感じ取ります。

特に問題が起きやすいのは、経験の浅いスタッフが難易度の高い治療のアシストについてしまう場面です。対応できないレベルのアシストを任されたスタッフが、治療の途中で院長に「他の人に替わって」と言われる。これは、どのスタッフがどの治療のアシストにつけるかという情報が院長とスタッフの間で共有されていないことから起きます。叱られて交代させられたスタッフの委縮は深く、その後の働き方にまで影響します。

スタッフへの指摘が必要な場面は必ずあります。しかしその場所と方法は選ぶべきです。患者の前ではなく、診療後に場を改めて伝える。行動を修正することに焦点を当て、感情をぶつけない。この原則を守ることが、スタッフを守り、結果として患者を守ることになります。

衛生状態と受付対応

治療の技術は見えなくても、院内の清潔さは患者の目に直接入ります。

シンクに置かれたままの治療後の器具、ユニット周辺に並ぶ器材、スピットン周りの汚れ、ユニット周囲の床の汚れ。スリッパで感じるザラザラ感。歯科医師や歯科衛生士のユニフォームに付着した汚れ。これらはすべて患者の視野に入ります。「この医院は衛生的に大丈夫なのか」という不安を患者に与えたとき、その不安は次回の来院をためらわせる理由になります。

盲点になりやすいのがトイレです。院長の目が届きにくい場所ですが、患者にとっては快適性を左右する場所です。こまめに状態を確認する担当者とチェックの仕組みがなければ、じわじわと汚れていきます。院内の清潔さへのこだわりが、トイレまで徹底されているかどうかは、医院全体の衛生管理の水準を示します。もちろん、待合室や治療ルームの衛生状態も重要です。診療終了後にまるーく掃除をかけるスタッフを目撃しますがプロケアと合わせて衛生状態を確認していただければと思います。ちなみに、私の知り合いの女性は、顔にかけられるタオルが不潔に感じると治療する医院を変えました。

受付の問題は、大きく三つに分かれます。不愛想な対応、スタッフ同士の私語、そして患者からの質問への不適切な返答です。

このうち院長が特に気づきにくいのが、受付スタッフと仲の良い患者とそうでない患者への対応の差です。受付スタッフにとって顔なじみの患者への対応は自然と温かくなります。一方、初めて来る患者や関係性が薄い患者への対応は、無意識のうちに事務的になっていることがあります。待合室で両方の場面を目撃した患者が「あの人とは楽しそうに話すのに、私には冷たい」と感じたとき、その不満は口コミになります。

院長は診療室の中にいるため、待合室や受付で何が起きているかを直接見ることができません。受付対応ひとつで口コミが生まれ、患者数が増減する現実があるにもかかわらず、院長の目が届かない場所であるがゆえに改善が後回しになりやすい領域です。

先生の医院では、受付の対応を定期的に確認する仕組みがありますか?

まとめ:院長から見えない場所で、患者の評価は決まっている

今回取り上げた場面に共通しているのは、「院長から見えにくい場所・場面で起きている」「院長が問題に気づいていない」ということです。

主訴と異なる治療への説明不足は、診療の流れの中で当然のこととして処理されてしまいます。スタッフへの叱責は、治療への集中の中で反射的に起きます。衛生状態の乱れは、忙しい診療の中で後回しになります。受付の対応の差は、診療室の中にいる院長には見えません。

患者はこれらをすべて見ています。感じています。そして何も言わずに去っていきます。

逆に言えば、これらの場面をひとつひとつ丁寧に整えていくことが、患者が「この医院に通い続けたい」と感じる体験の積み上げになります。治療技術を磨くことと同じくらい、あるいはそれ以上に、患者の体験の質を高めることが、今の時代の歯科医院経営には求められています。

次回、シリーズ3では、「痛みが取れれば来なくなる患者」と付き合わなくて済む医院を作るために、カウンセリングと説明の質をどう高めるかを掘り下げます。

 

先生の医院のこれからを、心から応援しています。

 

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