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【医療改革と歯科医院経営/シリーズ第3回】診療報酬の「文字」を読む。令和8年改定が令和10年改定以降に向けて発したシグナル  [2026年06月05日]
おはようございます。
歯科医院経営コーチの森脇康博です。
 
私は大阪の開業医団体で30年勤務し、院長の近くで経営と医院づくりを応援したいと独立して13年が経ちます。
このブログでは歯科医院経営とマネジメントに役立つ情報を発信します。
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はじめに

診療報酬改定のたびに、院長が最初に確認するのは何でしょうか。

多くの場合、「点数が上がったか下がったか」「新しい加算が取れるか」という視点から改定を読み始めます。もちろんそれは経営上必要な確認です。しかし、改定を点数の増減としてだけ読んでいると、国が発しているより重要なシグナルを見落とします。

診療報酬の改定通知には、点数だけでなく「文章での表現」があります。算定要件の中に新たに加えられた一文、施設基準の名称や内容の微妙な変化、廃止された項目の整理の仕方。これらの細部に、国が次の改定に向けて何を準備しているかが読み取れます。

令和8年改定を、令和10年、12年改定への布石として読み直す。それが今回のテーマです。

多くの院長が見ている変化と、見落としている変化

令和8年改定で院長の注目が集まったのは、歯科疾患管理料の再編、CAD/CAMの適用拡大、歯周病継続支援治療の統合・再編、口腔機能管理料・口腔機能実地指導料の対象拡大、重症化予防連携強化加算の要件変更、ベースアップ評価料、歯科訪問診療料4・5の報酬区分変更といった項目です。これらは患者数や月次の算定に直結するため、当然注目度が高くなります。

しかし、もう一段奥に目を向けると、令和10年・12年改定を見据えた布石としか読めない項目群が存在します。

電子的歯科診療情報連携体制整備加算の新設。暫間歯冠補綴装置の整理。NST(栄養サポートチーム)連携の評価強化(「4」の新設)。在宅療養支援歯科診療所加算での評価。医科連携訪問加算の新設。そして全体を通じた算定項目の簡素化・整理。

これらは単体では「点数が小さい」「対象が限られる」と感じるかもしれません。しかし、これらを一本の線でつなぐと、国が歯科医療提供体制をどこへ向かわせようとしているかの輪郭が見えてきます。医科との連携強化、栄養・摂食機能への踏み込み、そして診療情報の電子的な標準化。令和8年改定は、これらの基盤整備を着実に進めた改定でした。

「ちょっとした文章表現の変化」が示す国の意図

改定を深く読む習慣がある院長が最初に確認するのは、算定要件の「文章の変化」です。

今回の改定では、歯科疾患管理料の算定要件に「患者に継続管理の必要性を説明する」という趣旨の文言が加わりました。一見すると当たり前のことを書いているように見えます。しかしこの一文には、国の明確な意図が込められています。

算定しているにもかかわらず、継続管理が実態として機能していない。国はレセプトデータの分析を通じてそのことを把握しています。そこで「説明した事実をカルテに記載する」という要件を設けることで、算定の根拠を診療録に残すよう求める方向に動いています。

これは今後さらに強化されていく流れの入口です。「カルテへの記載」「患者への文書提供」「レセプト摘要欄への記載」といった算定要件は、将来的にAIがレセプトデータを審査する際の評価基準になり得ます。「算定しているがカルテに記録がない」という医院は、遅かれ早かれその矛盾を問われることになります。

青本(歯科点数表の解釈・社会保険研究所発行)に書かれている算定要件を、すべての項目について実態として守れているかどうか。今改めて確認する必要があります。

国が医療機関を動かす方法が、変わりつつある

診療報酬の歴史を振り返ると、国は長らく「インセンティブ」によって医療機関の行動を変えようとしてきました。施設基準を満たせば加算が取れる。新しい管理料を算定すれば収益が上がる。そうした誘導の仕組みです。

しかし、この方法には限界があることが明らかになりつつあります。かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)の時も、現在の口腔管理体制強化加算(口管強)も、取得率は全国で2割程度にとどまっています。インセンティブを用意しても、8割の医院は動かなかった。この現実を、国は当然把握しています。

ここにきて、ペナルティを活用する方向への兆しが見え始めています。賃上げに対応できない医療機関への評価の差別化、算定実態を伴わない管理料への締め付け。「インセンティブで動かない医院は、ペナルティで動かす」という発想への転換が、静かに始まっています。

「賃上げできない医療機関や中小企業は淘汰されても仕方がない」というのが、国の基本的なスタンスです。保険医療機関だからといって、経営の非効率が永続的に守られる時代は終わりつつあります。

令和10年以降の改定に向けて、国が準備していること

令和10年、12年改定に向けた国の準備の中心にあるのは、標準的電子カルテの普及、PHR(パーソナル・ヘルス・レコード)およびEHR(電子健康記録)の整備、そしてAIを活用した医療政策の策定と審査の高度化です。

歯科界では「標準的電子カルテの2030年普及は困難だ」という声も多く聞かれます。しかし、遅かれ早かれシステムはAIを活用したものに置き換えられ、保険算定の厳格化が進むことも、同時に認識しておく必要があります。

また、施設基準の要件が順守されているかを調べる調査も医科では始まっています。歯科においても、クローラー(自動巡回プログラム)による適時調査の実施が始まる可能性が高いのです。算定実態調査のデータが蓄積され、たとえば「歯科疾患管理料を算定しているが継続管理の実績がない」という傾向が統計的に示されれば、財務省はその点を根拠に次の改定で切り込んでくるでしょう。

アウトカム評価(治療の結果・成果を評価に組み込む仕組み)については、医科での先行導入を経て、歯科への本格導入は令和12年以降になると見ています。令和10年改定は、その導入に向けたデータ基盤の整備が主軸になるはずです。今回の改定で進んだ算定項目の整理と情報連携の標準化は、まさにその準備です。

院長が今すぐ動くべきこと

シリーズを通じて繰り返しお伝えしていることですが、改定の方向性を「読んで終わり」にしては意味がありません。令和8年改定のシグナルを踏まえて、今から動けることを整理します。

まず取り組むべきは、歯科医学会の指針や青本(歯科点数表の解釈、社会保険研究所発行)に基づく診療です。カルテへの記載、患者への文書提供、レセプト摘要欄への記載、院内やweb掲示。算定要件として定められていることを、すべての項目で実態として守れているかを点検してください。「だいたいやっている」という感覚的な把握では不十分です。

次に、根拠のある治療と治療システムの構築です。歯周病治療のフロー、口腔機能管理の手順、継続管理の仕組み。これらが院内で標準化され、どの勤務ドクターやスタッフが担当しても同じ質で患者に提供できる体制になっているかを確認してください。

そして、一般企業並みの経営管理力を身につけることです。月次の数字を追うだけでなく、KGI(重要目標達成指標)とKPI(重要業績評価指標)を設計し、組織として数値目標に向かって動ける体制をつくる。長年、国の制度によって一定程度保護されてきた保険医療機関も、これからは院長の経営力が医院の存続を左右する時代に入っています。もちろん、理念(目的)の達成に向けて数値管理(手段)を使うことを忘れてはなりません。

まとめ

「プラス改定であってほしい」と院長が願うことは、決して悪いことではありません。しかし、それを前提に経営を設計するのは他力本願です。

令和8年改定が示したシグナルは明確です。質の高い治療を、根拠を持って記録し、患者に説明し、多職種と連携し、継続的に管理できる医院を評価する。そうでない医院との差を、今後の改定はより明確につけていく方向に向かっています。

改定を「点数の増減」として読む院長と、「国の制度設計思想の変化」として読む院長とでは、5年後・10年後に取れる選択肢の幅がまったく異なります。

次回、シリーズ4では、こうした環境変化の中で、保険医療機関として地域に残り続けるために何が必要かを、具体的な経営の視点から掘り下げます。

 

先生の医院のこれからを、心から応援しています。

 

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