「人件費率20%」という数字は、今も正しいのか
かつて、保険診療中心の歯科医院における適正な人件費率は売上の20%程度だと言われていました。
この数字を目安にしている院長は、今も少なくありません。
しかし近年、この「常識」が通用しなくなっているケースが増えています。
定期管理型歯科医院を目指して歯科衛生士を積極的に採用している医院では、人件費率が20%を超えることは珍しくありません。
歯科衛生士ユニットを増設し、リピート型収益の基盤をつくる戦略を選んだ医院では、短期的には人件費率が高くなりますが、長期的には患者一人あたりのLTV(生涯価値)が高まり、変動費率が下がり、安定した収益構造が生まれます。
人件費率が20%を超えているから問題だ、と即断するのは早計です。
人件費率という単一の数字だけで医院の健全性を判断しようとすることに、そもそも無理があります。
とくに、これからはベースアップ評価料に見るように賃上げ必須の時代です。人件費は増えていくのです。
そもそも「業界平均」との比較に意味はあるのか
セミナーや業界誌で「歯科医院の平均人件費率は〇〇%」「平均利益率は〇〇%」という数字を目にすることがあります。
自院の数字がその平均に近いと安心し、大きく外れていると不安になる。こういう反応をしてしまう院長は多い。
しかし、立ち止まって考えてみてください。
その「平均」は、どんな医院の数字を集めて計算されたものでしょうか。
都市部の医院も地方の医院も、開業年数1年の医院も20年の医院も、保険診療中心の医院も自費比率の高い医院も、すべてが混在した「平均」です。
収益モデルが違う、規模が違う、開業地域が違う、スタッフ構成が違う。こうした医院の数字を平均しても、自院の経営判断には使えません。
むしろ「業界平均に近い」ことは、自院が適正である証拠にはなりません。
平均に近づけることを目指す経営は、自院の強みや戦略を平均値に合わせて薄めていく可能性があります。
追うべき数字は「営業利益」である
では何を見ればいいのか。答えはシンプルです。
十分な営業利益(および経常利益)を残せているかどうかを見てください。
営業利益とは、医院の本業(診療)から生まれた利益です。
売上から、人件費・材料費・家賃・その他の経費を引いた残りです。
この数字がプラスで、かつ十分な水準にあれば、医院の本業は健全に機能しています。
人件費率が25%だとしても、営業利益が十分に確保できているなら問題ではありません。
逆に人件費率が18%でも、その他の経費が膨らんで営業利益が薄ければ、経営は苦しい状態です。
個別の比率ではなく、最終的に残る利益の水準で判断することが大切です。
先生の医院では毎月の営業利益を確認していますか。
そしてその水準が、借入返済・再投資・内部留保に十分な額であるかを判断できていますか。
一方で「追うべき生産性の数字」はある
業界平均との比較には意味がないと言いましたが、医院内部の生産性指標は別の話です。
これは自院の改善を測るために積極的に追うべき数字です。
特に重要なのが「スタッフ一人あたりの生産性」と「ユニット時間あたりの生産性」です。
スタッフ一人あたりの生産性は、医業収益をスタッフ数で割ることで計算できます。
スタッフが増えるにつれてこの数字がどう変化するかを追うことで、採用と育成の投資効果が見えます。
人件費率が高くても、一人あたりの生産性が高ければ、その人件費は適正な投資です。
逆に人件費率が低くても、一人あたりの生産性も低ければ、スタッフが収益に貢献できていない状態です。
ユニット時間あたりの生産性は、診療時間とユニット稼働率から計算します。
予約が埋まっているのに売上が伸びない医院では、この数字が低いことが多い。
一時間あたりにどれだけの収益を生み出せているかを意識することで、予約の組み方・診療の密度・処置の単価設計を見直すきっかけになります。
これらの数字は業界平均と比較するためではなく、「先月より今月、今月より来月」という自院の改善を測るために使います。
自院の数字の推移を見ることに意味があり、他院の数字と比べることには意味がありません。
「追わなくていい数字」に振り回されない
経営の数字には、追うべきものと追わなくていいものがあります。
追わなくていい数字の代表が、業界平均との比較です。
自院の収益モデル・規模・地域・戦略が違う以上、平均への近接に意味はありません。
平均を目安に「うちは少し高い、少し低い」と一喜一憂することに経営判断の根拠はありません。
医院経営を発展させるのに必要な営業利益が残せていればそれで良いのです。
もう一つ追わなくていいのが、競合医院の表面的な情報です。
近隣の医院がアライナー矯正を始めた、設備を新しくしたという情報に反応して、自院の戦略をぶらすことは得策ではありません。
追うべき数字は、営業利益・一人あたり生産性・ユニット時間あたり生産性・継続来院率・患者単価・中断率・・・これらの自院の推移です。
この数字が改善し続けているなら、経営は正しい方向に進んでいます。
先生の医院で今、定期的に確認している数字はどれですか。
そしてその数字は、自院の収益モデルに合った指標になっていますか。
まとめ
院長が経営への不安から判断する基準を得たいお気持ちは理解できます。
しかし業界平均との比較は、自院の経営判断には使えません。
収益モデル・規模・地域・スタッフ構成が異なる医院の平均に合わせることを目指しても、自院の強みは育ちません。
人件費率が高くても十分な営業利益を残せているなら問題ではない。
重要なのは最終的に残る利益の水準です。
そして自院の生産性の推移を自院内の指標で追い続けること。この二つが、数字を使った経営の基本姿勢です。
自院に合った指標の設計について相談したい院長は、ぜひ一度お声がけください。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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