開業後に経営が安定してきた多くの院長が直面する、お金の悩み
開業から5年が経ち経営が安定してきた頃、多くの院長がこんな悩みを抱えます。
「売上が順調に伸びて資金繰りに余裕が出てきた」
「開業資金借り入れの返済は続いているが金利上昇が心配」
「繰り上げ返済を進めた方が良いのか?でも手元に現金がないのも不安だ」
「次の事業投資の為の貯蓄を優先すべきか、それとも返済を急ぐべきか」
答えはひとつではありません。医院の財務状況、借入条件、金利の水準、長期資金か短期資金か等々、
院長自身の経営スタイルによって最善の判断は変わります。
ただ、考え方の軸を持っていれば、自分の状況に合った判断ができるようになります。今日はその軸をお伝えします。
金利上昇局面では、早期返済の価値が高まる
まず、今の経済環境を確認しておきます。
長らく続いた低金利の時代が変わりつつあります。金利が上昇する局面では、借入残高に対して支払う利息の総額が増えていきます。
早い段階で元本を減らしておくことで、その後の金利負担を大きく抑えることができます。
たとえば返済期間の前半に繰り上げ返済を行うと、元本が減るだけでなく、残りの期間にかかる利息も同時に減ります。
返済期間の後半になるほど、この効果は小さくなります。だからこそ「早期返済の価値は高い」と言われるのです。
これは数字の問題ではなく、構造の問題です。借入を抱えているかぎり、その借入には金利というコストが発生し続けています。
このコストを早く終わらせることが、経営の体力を高めることにつながります。
手元資金がなければ経営は動かない
では、手元の現金をすべて返済に充てれば良いかというと、そうはいきません。
歯科医院の経営において、手元資金はいわば「酸素」です。スタッフへの給与支払い、医療材料の仕入れ、設備の修繕や更新、突発的なトラブルへの対応。
これらはすべて、手元に現金があることで初めて対応できます。
手元資金が乏しい状態では、売上が一時的に落ちたとき、あるいは予期せぬ出費が重なったときに、経営が即座に苦しくなります。
借入を繰り上げ返済したことで手元資金を使い果たし、その後の運転資金に困るという事態は、避けなければならないのです。
院長が「いざというときに動ける」状態を保つためには、ある程度の手元資金を確保しておくことが必要です。これは保守的な考え方ではなく、経営の基本です。
返済と貯蓄、判断の軸となる考え方
返済と貯蓄のバランスをどう設計するかは、個々の医院の財務状況によって異なります。
具体的な数字は顧問税理士や金融機関の担当者と相談することが前提です。ただし、判断の軸となる考え方はあります。
一つ目は「借入の金利コストと、手元資金を持つ安心感を比較する」という視点です。
繰り上げ返済によって減らせる金利の総額と、その現金を手元に持つことで得られる経営上の安心感・柔軟性を天秤にかけます。
高い金利の借入であれば早期返済の優先度は上がり、金利が低く条件の良い借入であれば手元資金の確保を優先する考え方もできます。
二つ目は「何ヶ月分の運転資金を手元に持っておくか」を自分なりに決めておくという視点です。
具体的な月数は医院の規模・固定費の水準・売上の安定度によって変わります。
ただ「最低でも〇ヶ月分は手元に残す」という基準を持っていれば、返済と貯蓄のバランスを判断するときの拠り所になります。
この基準を顧問税理士と一緒に設定しておくことをお勧めします。
三つ目は「拡大投資のタイミングを視野に入れる」という視点です。
スタッフが10人を超えた院長の多くは、さらなる拡大を検討する時期に入ります。
ユニットを増やす、スタッフを増員する、移転や増床を考える。こうした投資には、まとまった資金が必要になることがあります。
そのタイミングに備えて手元資金を積んでおく必要があるのか、あるいはその前に借入を減らしておく方が次の融資を受けやすいのか。
どちらが自院の状況に合っているかを、今から考え始めておくことが重要です。
院長が「お金の流れ」を自分で理解しておく重要性
返済と貯蓄のバランスを考えるとき、院長が自院の損益と資金繰りを自分の言葉で理解していることが前提になります。
税理士や金融機関の担当者に任せきりにするのではなく、毎月の試算表を見て、借入残高と返済額の推移を把握し、手元資金の増減を確認する習慣を持つこと。
これが経営者としての基本姿勢です。
数字が分かるようになると、繰り上げ返済のタイミングや金額についても、自分なりの判断ができるようになります。
そして税理士との相談の質も上がります。
「先生、どうすればいいですか」から「こういう考えで動こうと思いますが、どうでしょうか」という対話に変わるとき、院長は経営者として一段階成長しています。
先生の医院の「お金の流れ」を、今どのくらい把握できていますか。
まとめ
借入返済と貯蓄のどちらを優先するかに、万人に共通する正解はありません。
金利の水準、手元資金の状況、今後の投資計画、院長の経営スタイル。これらを総合的に判断することが必要です。
ただし考え方の軸は持てます。
金利上昇局面では早期返済の価値が高いこと。
手元資金は経営の酸素であること。
拡大投資のタイミングを視野に入れながら資金を設計すること。
そして院長自身がお金の流れを理解していること。
この軸を持った上で、顧問税理士と一緒に自院に合った判断をしていただければと思います。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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