今日は、「指示しなくても動くチーム」をテーマにお話しします。
多くの院長が抱える悩みは、こうです。
「スタッフが自分で考えて動かない」
「こちらが指示しないと何も進まない」
しかし、私はこう考えます。
スタッフが動かないのではなく、「自ら動く余白を与えられていない」だけなのです。
指示・叱責・報酬に頼る“コントロール型経営”の限界
歯科医院の現場では、
・「もっと空気を読んで早く動いて」
・「前に教えたでしょ、何で出来ないの」
・「なんで言われるまでやらないの?」
・「プロジェクトで成果が出たらボーナスで評価するからね」
という言葉が日常的に飛び交います。
これらはいずれも、外発的コントロール(外からの動機づけ)です。
確かに短期的には行動を促せます。
しかし、それを繰り返すほどスタッフはこう感じます。
「どうせ何をしても評価されない」
「言われたことだけやっていればいい」
つまり、自律性(自分で決めて動く力)が奪われてしまうのです。
自走するチームをつくる鍵は「自己決定理論」
心理学者デシとライアンが提唱した「自己決定理論」は、
人が内発的に動機づけられるための3つの要素を示しています。
① 自律性(Autonomy)
自分で考え、選び、行動できているという感覚。
「やらされている」ではなく、「自分がやりたいからやっている」状態。
② 有能感(Competence)
自分の成長を実感し、役に立てているという感覚。
努力が成果に結びつく経験が、モチベーションを高める。
③ 関係性(Relatedness)
自分が仲間に受け入れられ、信頼されているという感覚。
チームの一員として認められている安心感。
この3つが満たされると、人は自ら考え、動き、改善し続けます。
「自己決定」を生み出すために、院長が変えるべき3つの関わり方
① 指示ではなく「問い」を使う
指示は思考を止めますが、「問い」は考える力を引き出します。
例:
×「○○をやっておいて」
〇「この課題を解決するには、どんな手順が良いと思う?」
スタッフが自分で答えを考え、選択できる余白をつくることが第一歩です。
② 成果よりも「過程」を認める
報酬や評価で結果だけを褒めると、「正解探し型スタッフ」が増えます。
しかし、プロセスを認めると「成長実感」が得られ、内発的動機が強まります。
例:
「その準備の仕方、工夫してるね」
「ミスの振り返り、すごく整理されてたね」
「〇〇さんのミーティングの進め方とまとめ方は課題が明確になって有難いよ」
結果より“努力のプロセス”に焦点を当てることが、自走型の第一歩です。
③ 権限委譲ではなく「意思決定委譲」
院長がすべてを決めてしまうと、スタッフは“受け身”になります。
しかし、「どう進めるかは任せる」と言われると、自律性が生まれます。
例:
・「この患者説明用ツール、どう改善したらもっと伝わると思う?」
・「新人教育の進め方を、あなたのやり方で組み立ててみて」
決定権を“少しずつ”スタッフに返していく。
これが自己決定の連鎖を生む仕組みです。
■ 実践チェックリスト:自走型チームに変わるために
チェック項目 |
Yes / No |
指示や叱責より「問いかけ」を増やしているか |
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成果だけでなく、努力や改善のプロセスを承認しているか |
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スタッフが自分で計画を立てる場を定期的に設けているか |
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ミーティングで意見を出しやすい雰囲気があるか |
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院長自身が“任せる勇気”を持てているか |
「Yes」が3つ未満であれば、
医院のチームマネジメントはまだ“外発的コントロール依存”の段階です。
まとめ:スタッフは“動かすもの”ではなく“育つもの”
チームの主体性は「院長が与える」ものではなく、
「院長が奪わない」ことから始まります。
スタッフは、本来“自ら成長したい”“役に立ちたい”という欲求を持っています。
それを抑え込んでしまうのが、過剰なコントロールなのです。
“動かすリーダー”から“動きたくなるリーダー”へ。
その変化こそ、医院の成長の転換点です。
ひとこと
コントロール型の組織では、「従うスタッフ」は育ちますが、「考えるスタッフ」は育ちません。
しかし、自己決定できる環境を整えれば、スタッフは驚くほど自走します。
経営の成果は「人を動かす力」ではなく、「人の内にある力を信じ引き出す力」で決まるのです。
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