中医協の診療報酬改定の第一回論議では、歯科に関して 在宅歯科医療・障害者歯科・口腔機能管理・多職種連携・歯科衛生士・技工士の確保・デジタル化 などのテーマが提示されました。
ここから見えてくるのは、歯科医療が「治療中心型」から「管理・予防・連携型」に大きく舵を切るという方向性です。
ただし、医院の規模や人材体制によって取れる戦略は大きく異なります。私が改定内容を読んだ感想は「国が歯科医院に求める役割の多くを実行できる歯科医院はまだまだ少ない」です。
院長は限られる経営資源をどこに投下するべきか?に頭を悩ませるでしょう。
本記事では ①大型歯科医院(訪問強い)②大型歯科医院(自費強い)③中規模歯科医院④小規模零細歯科医院 に分けて、対応の検討ポイントを整理しました。
① 大型歯科医院(訪問強い)
・注目テーマ:在宅歯科医療、かかりつけ医機能、多職種連携
・課題:訪問ニーズは確実に増加しますが、歯科衛生士が行う管理系の施術時間を確保すると稼働効率が下がり、生産性に直結するリスクがあります。
・対応の方向性
☆医科や介護、薬局、行政との 地域連携パスの構築(連携の実態と成果が評価される時代)
☆歯科衛生士の訪問稼働を支える タスクシフト・デジタル化(連携・情報管理・報告におけるデジタルツール導入、効率化)
☆在宅系加算の取りこぼし防止と、生活習慣・口腔機能管理を組み合わせた 包括的管理モデル への移行
☆将来の訪問可能地域拡大を見越した戦略の立案(集中か?それとも拡大か?)
② 大型歯科医院(自費強い)
・注目テーマ:デジタル化、自費と保険の共存、歯科衛生士確保
・課題:管理系の算定要件は強化される一方、施術時間を一律延長すればユニット稼働率が落ち、自費収益分野の成長を阻害しかねません。
・対応の方向性
☆予約システム、広告戦略等のデジタル化とデータベース分析と活用
☆自費領域のデジタル化(CAD/CAM、口腔内スキャナ)と内製化を一層推進し、外注依存リスクを減らす。
☆歯科衛生士には「歯周病管理・う蝕管理・口腔機能管理」を中心に任せ、リーダー歯科医師は自費・難症例に集中できる体制を構築。
☆「治療説明を患者に納得してもらえる仕組み」を強化する為にコンサルテーションシステムを再構築、保険と自費の矛盾感をなくす。
☆健康観が高い患者に対する治療コンテンツ、付加コンテンツを強化
☆強みを強化し、収益性を向上させる為に多角化(自費の柱を増やす)を検討
③中規模歯科医院
・注目テーマ:歯周病・口腔機能管理、患者層の高齢化
・課題:勤務歯科医師や歯科衛生士は在籍するが人数が限られ、訪問や院内患者の長期管理の両立が難しいケースが多い(資源の分散)。
・対応の方向性
☆歯科衛生士1人あたりの管理患者数を明確にし、 「短時間でも質を担保する評価方法」 を導入。
☆高齢者比率が上がる中で、かかりつけ歯科医機能(在宅・口腔管理)に一部対応できる体制を整備。
☆無理に全領域へ広げず、 「地域の中で選ばれる専門性」 を明確にする。
更なる拡大か?それとも専門分野強化か?大型・超大型歯科医院と比べて経営資源が不足する為、多方面強化は現実的ではありません。大型化を目指すならスピード感が必要ですが、ここ3年位で売上が大幅に伸びていないなら大型化は諦めた方がよいかもしれません。
④ 小規模零細歯科医院
・注目テーマ:歯科衛生士不在率の高さ、管理系算定の限界
・課題:常勤歯科衛生士がいない場合、う蝕・歯周病・口腔機能管理の算定要件を満たせず「改定対応戦略が打てない」リスクが大。
・対応の方向性
☆無理に管理算定を狙うのではなく、 効率的な保険診療+院長の専門性の自費化(外科・小児・義歯など) に注力。
☆基本的なマーケティング戦略は「弱者の戦略」と「密着軸」、かゆい所に手が届く医院づくり
☆将来的には 連携型(訪問中心医院や技工内製医院、専門ブランド医院、大型歯科医院との協力) を模索し、単独で戦えない部分を補完。
☆設備投資を抑え所有資産における収益率を高める
まとめ
令和8年改定の流れは、規模に関わらず「管理・予防・連携・DX」がキーワードになります。
ただし、全ての戦略が全ての医院に当てはまるわけではありません。
・大型訪問型医院:在宅強化、連携強化と効率化の両立
・大型自費型医院:自費拡大と保険管理のバランス
・中規模医院:選択と集中による地域での立ち位置確立
・小規模医院:効率化と専門性、密着性で生き残り
医院ごとの経営資源を冷静に見極め、強化すべき分野を見誤らないことが、次の改定を生き抜く最大のポイントになります。
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