はじめに:なぜ今、「人件費対策」が経営の最優先テーマなのか?
ここ数年、歯科医院の採用現場では「現在の時給では人が集まらない」という声が増えています。
特に都市部では、国は1500円を新たな基準にしようとしており、「受付でも、診療スタッフでもこの水準が求められる時代」に突入しました。
一方で、診療報酬は横ばい、材料費や光熱費は上昇傾向。
人件費は従来20~25%前後が平均とされてきましたが、このまま賃上げを続ければ経営圧迫は避けられません。
今回は、「どうすれば人件費の上昇に対応しながら、医院の安定経営を維持できるのか?」について、構造的視点で解説します。
人件費率の増加は避けられない時代へ
現在、歯科医院の人件費率は少しづつ上昇し始めています。
・最低賃金の上昇
・他業界との人材獲得競争
・社会保険料や法定福利費の負担増
といった要因により、対策をしなければ5年以内に30%超えもありうるのです。
特に、歯科衛生士や診療スタッフ、受付を正社員として雇用し続ける場合、給与だけでなく賞与・社会保険・有休などの付加コストも加算され、実質的な人件費は年々上昇。
「とりあえず昇給でつなぐ」経営スタイルでは、いずれ立ち行かなくなります。
スタッフ採用の賃金相場が上がり、院長が自院の募集広告の条件を上げれば既存スタッフの給与も上げる必要がある。
やはり人件費増を賄える収益増を実現しなければ、医院の収益力は低下するしかないのです。
賃上げの限界と「構造改革」の必要性
診療報酬は全体で見れば横ばい。とくに基本点数は抑制傾向にあり、今後も大幅な増収は見込みづらい状況です。
前回の改定の様にプラス改定になっても「ベースアップ評価料」など人件費に関わるもののウエイトが高く、その他の経営コストの増加で医院の収益は減少する危険性があるのです。
その中で賃上げを続けるためには、
売上そのものを伸ばすか、スタッフ1人あたりの生産性を高めるか、またはその両方が必要です。
つまり、医院の経営体質そのものを見直す「構造改革」が求められているのです。
生産性アップのカギは「ユニット稼働率・自費率・来院頻度」
人件費を費用として捉えるのではなく、「投資」として活かすには、生産性の最大化が不可欠です。
特に以下の3点は、即効性と持続性の両面で大きな効果を持ちます。
1)ユニット稼働率の改善
・アポイントの隙間を減らす予約設計
・基本治療、検査やSPT枠の再構成による稼働平準化
・診療チェア稼働時間のKPI化
2)自費率の向上(治療単価のアップ)
・カウンセリング体制の整備
・説明スクリプトや資料の標準化
・保険からの移行提案フローを仕組み化
3)来院頻度の最適化
・再評価による「来院期間」と「施術時間」の適正化
・リコール率の管理
・SPT、P重防来院患者へのモチベーション強化
・中断患者の掘り起こし施策
これらを徹底することで、“同じ人件費でも生み出す収益が増える”医院体質へと変えていけます。
業務の標準化と分業体制で「1人あたり売上」を伸ばす
人件費上昇への対応として、分業による効率化と標準化による再現性向上は避けて通れません。
・受付とカウンセリングの分離(治療コーディネーターの導入)、カウンセリング室の設置
・歯科衛生士業務のマニュアル化、時短化とフォロー体制(DHA活用、入力業務の省力化など)
・診療スタッフによる準備・片付けのオペレーション最適化
・診療スピードに応じたユニット運用とアシスト連携
・フロアリーダーによる診療コントロール
これにより、同じ人数でも診療効率が向上し、「1人あたりの売上」が上がる構造が生まれます。
「育成×定着」が人件費の費用対効果を変える
人件費は「採用→教育→定着」がセットになって初めて、費用対効果が生まれます。
短期離職が続けば、育成投資が回収される前にコストが積み上がり、逆に赤字要因となってしまいます。
・スタッフの成長ステージに応じた育成カリキュラム
・定期的な面談とキャリア設計
・評価制度の見直し(「頑張りが見える」仕組み)
・心理的安全性を確保したチーム運営
これらの取り組みによって、「辞めないスタッフ」「育つスタッフ」が医院の財産となり、人件費は“コスト”から“成長資産”へと転換されます。
「経験効果」による生産性向上を実現する為には”人が退職しない”歯科医院を実現することが必要不可欠なのです。
おわりに:価格競争から価値競争へ。歯科医院の未来を守る経営視点
人件費上昇は、確かに経営を圧迫する要因ではありますが、
逆にいえば「人への投資を最大限活かせる医院こそが、これから生き残る」とも言えます。
先生の医院では、人件費が生産性に見合った形で活かされていますか?
それとも、「なんとなく昇給」「とりあえず採用」に終始していませんか?
価格競争から価値競争へ。
賃上げの波をチャンスと捉え、「人を活かす医院経営」にシフトするための見直しを、今こそ始めてみませんか?
ご相談いただければ、医院のフェーズや地域性に合わせた対策設計を一緒に進めさせていただきます。