「地域に複数の医院を集中展開してシェアを取る」――いわゆるドミナント戦略は、小売業や飲食業では有効とされてきました。
では、歯科医院経営においても同じ考え方は通用するのでしょうか?
結論から言うと、小規模な分院を展開させる戦略は、現代の歯科医院経営においては逆効果になる可能性が高いと考えます。
理由と代替戦略を、3つの立場から整理してみましょう。
(1)推進の立場 ― ドミナント戦略が有効に働く条件
確かに、都市部で条件を満たせばドミナント戦略のメリットはあります。
・広告効果の最大化:エリア内でブランドを浸透させやすい
・人材・設備のシェア:分院間で歯科医師や歯科衛生士を融通できる
・購買コストの削減:材料・機器を一括調達できる
・ブランド認知向上:地域住民から「よく目にする医院」として安心感が得られる
ただし、これは人口集中エリア、特に急行停車駅周辺や都市型商圏など、患者需要と人材供給が豊富な環境でなければ成立しにくいのが現実です。
(2)否定的な立場 ― 小規模分院展開が危険な理由
現在の歯科医院経営を取り巻く環境は、昭和の時代とは大きく異なります。
・開業費の高騰:戸建て2億円、テナント1億円規模が当たり前
・保険収益の伸び悩み:診療報酬改定で収益性が悪化
・人材不足:分院が増えるほど歯科医師・衛生士の採用難が深刻化(特に分院長確保)
・品質低下リスク:院長不在の分院では治療品質・マネジメントにばらつきが出やすい
・商圏縮小リスク:人口減少地域では、複数分院が共倒れになりやすい
つまり、小規模な分院展開では投資回収が困難で、リスクが拡大するばかりなのです。
地域の人口動態によっては、小規模な分院の収益性の悪さがドミナント戦略による効果を超えてしまうと私は考えています。
(3)客観的な立場 ― 多店舗展開より「拠点最適化」が合理的
歯科医院経営においては、単なる多店舗展開よりも「拠点の最適化」が重要です。
例えば、
・都市部の駐車場が確保できる場所に大規模中核医院を構築:オペ室、高度な設備、技工部門、訪問診療拠点、管理実務などを集約
・都市部の中心にサテライト医院を展開:ホワイトニング、アライナー矯正、自費治療、子育てなどペルソナニーズに特化
・IT・DXで一元管理:予約・カルテ・患者情報を統合し、マーケティング機能も集約化、複数拠点でも運営効率を高める
・教育環境、福利厚生、労働環境などを管理部門で一元管理し、大きな法人で働くことの「安心」を打ち出す
など、狙ったマーケットシェアを獲得して陣地を拡げていく。分院長を最大限サポートできる体制の構築が必要です。
勤務ドクターが本院にいる時に分院長のキャリアプランを提示し、治療技術を磨いてもらってエッジを立てる為の準備をしてもらうのです。
サテライト型以外にも中規模医院を「都市部の急行が停車する駅前に出す」「幹線道路沿いに出す」分院展開もありますが、分院を出すことで組織の求心力が低下して人の出入りが激しくなるリスクもある。
超大型歯科医院が規模の拡大による優位性と収益性アップを狙う戦略としてはありなのですが、組織の作り方とまとめ方によっては永遠に「人の問題で悩まされる」ことになるのです。
まとめ
歯科医院におけるドミナント戦略は、 都市部の条件を満たせば一定の効果はあるものの、
現代の環境では小規模な分院展開は経営的に逆効果になるリスクが大きいと考えられます。
その代わりに有効なのは――
「拠点最適化」= 大型中核医院 × 自費特化サテライトの組み合わせ
ですが、先ずは拠点となる本院の経営力、治療ブランド、チームメンバーを鍛え上げ規模と収益力を高めてからの話です。
拠点院で治療品質と経営的面での成果を出せていないのに分院展開を考えるのはリスクが高すぎる。
これからの歯科医院は、数を増やす戦略ではなく、質を高める戦略こそが生き残りのカギになるのです。
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