いま、多くの院長先生が「若い患者の減少」や「都市部の新規開業の競合増加」を肌で感じています。
けれども、その原因を“人口減少”や“他院の広告力”に求めるのは危険です。
なぜなら、成功している歯科医院は同じ環境の中でも「自院の強み」と「地域ニーズ」をぴたりと重ねている」からです。
マーケティングの本質は、「誰に、どんな価値を、どのように届けるか」を設計すること。
つまり、“地域に求められる医院”を構築するための設計図づくりです。
1.「診療圏分析」だけでは足りない ― “生活動線”を読む時代へ
従来の診療圏分析は、
「半径1km、3km圏内に何人住んでいるか」「競合医院が何軒あるか」
という静的なデータが中心でした。
しかし、今必要なのは“人の流れ”を読む視点です。
・どこで働き、どこで買い物をし、どんな時間帯に移動しているか
・近隣のドラッグストアやカフェの立地はどこに増えているか
・保育園・高齢者施設・フィットネスなどの新設動向
これらの情報は、「地域住民の生活動線」を示しています。
つまり、「人がどこでどう生活し、どんな健康行動を取っているのか」を理解することがマーケティングの第一歩なのです。
2.“得意分野”と“好きな治療”は違う
ここで多くの院長が誤解しやすいポイントがあります。
それは、「院長の好きな治療」と「地域の人から医院が選ばれる分野」は必ずしも一致しないということ。
例えば、
・審美治療が好きでも、地域人口が減少し高齢化していれば需要が限られる
・インプラントに力を入れたいが、富裕層が住む地域なので需要が限られる
・小児歯科に熱意を持っても、若年層人口が減少している
このように、“地域が求める価値”と“医院が提供できる価値”が重なる部分にこそ、持続的な成長が生まれます。
つまり、院長の理想を「地域の課題解決」に翻訳することがマーケティングの本質なのです。
3.マッチングの具体例 ― “地域特性別モデル医院”を描いてみる
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地域タイプ |
主なニーズ |
強化すべき医院戦略 |
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大都市中心部 |
時間効率・審美・メンテナンス志向 |
自費率強化・予約最適化・夜間診療導線 |
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郊外住宅地 |
予防・小児・家族単位での健康管理 |
家族導線設計・コミュニティ連携・教育型予防、昼間の来院強化 |
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高齢化地域 |
訪問・口腔機能管理・摂食嚥下支援 |
多職種連携・訪問チーム設計・口腔機能評価 |
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新興エリア |
健康意識の高い若年層・審美需要 |
SNSブランディング・自費メニュー設計・ライフスタイル訴求 |
このように「地域ごとに勝ち筋を変える」ことが大切です。
全国どこでも同じ経営戦略では、地域特性を活かせず埋没してしまいます。
4.「地域ニーズ×医院資源」チェックリスト
ステップ①:地域を知る
・近隣住民の年齢構成・世帯収入・生活動線を把握しているか?
・周辺に新しい施設(商業・介護・教育)が増えていないか?
・患者アンケートや会話から“未充足ニーズ”を拾えているか?
ステップ②:自院を知る
・医院の強み・弱み・得意領域をスタッフと共有できているか?
・「誰に」「何を」「どのように」提供するかを言語化できるか?
・医院の理念と地域ニーズの重なりを説明できるか?
ステップ③:戦略を描く
・「地域課題を解決する医院像」を設定しているか?
・来院導線(Web・紹介・口コミ)のボトルネックを把握しているか?
・3年後・5年後の地域変化を予測して準備しているか?
5.今日からできる実践:
「3つのマッチング質問」をチームで話し合ってみてください
(1) 地域の人が本当に困っていることは何か?
(2) その中で、自分たちが一番得意に解決できるのは何か?
(3)それを、どんな体験を通して伝えるのか?
この3つの問いをスタッフと共有することで、“医院の強み”が“地域の価値”に変わります。
まとめ
マーケティングの基本とは、「地域に必要とされる存在になること」。売上を増やす手段ではありません。
マーケット需要と経営資源のマッチングができている医院は、広告を出さなくても“自然に選ばれる”。
そして、それが“地域から信頼され続ける歯科医院”の第一歩です。
次回予告
第2回:「競合調査とポジショニング ― “差別化”ではなく“選ばれる理由”を設計する」
次回は、他院との比較ではなく、“患者にとって意味のある違い”をどう設計するかを解説します。
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