「働きやすいだけ」では人は育たない
歯科衛生士をはじめとする有資格者の確保と定着が困難になっている今、多くの医院が労働条件の改善に力を入れ始めています。実際に、完全週休二日制や有給取得推進、時短、福利厚生の充実、子育てスタッフへの配慮を掲げる医院は年々増加しています。しかし、こうした環境整備だけでは“人は定着しない”という現実があるのです。
ある郊外の歯科医院では、週休2日+特別休暇制を導入し、福利厚生も充実させたにも関わらず、新人と中堅の歯科衛生士2名が退職しました。理由をヒアリングすると、「歯科衛生士業務以外の業務が多く、勉強会もないので自分が成長できていない」「自分が成長できていないのに後輩指導の負担だけが増えて苦しい」というものでした。
働きやすさの土台の上に、「成長できる実感」がなければ、特に意欲ある有資格者ほど離れていくのです。
先生の医院では、歯科衛生士が“学び続けたい”と思えるような環境が整っていますか?
教えることは、別のスキルである
「知識がある人は教えるのも上手」と考えるのは、実は大きな誤解です。臨床力が高いスタッフが指導を任されても、うまく伝えられず、かえって新人を萎縮させてしまうというのはよくある話です。
ある医院では、「歯科衛生士としてブランクがある方歓迎」「一から丁寧に指導します」と求人に記載していたものの、実際に採用された方は初日からアポイントが詰め込まれ、ろくな指導もなく現場に放り込まれてしまいました。その結果、2ヶ月で離職。「話が違う」と口コミにも悪影響が出てしまったのです。
この原因の多くは、中途採用者向けの育成カリキュラムが存在せず、かつ教える側が「教える技術(インストラクションスキル)」を持ち合わせていないことにあります。医院の成長には、指導者を育てる仕組みが不可欠なのです。
「学び」と「キャリアパス」がある職場が選ばれる時代
現代の求職者は、「職場で何を学べるか」「どのようにキャリアアップできるか」を重視する傾向が強まっています。特に有資格者である歯科衛生士や歯科技工士は、成長実感がない職場では早期に見切りをつけるケースが多く見られます。
例えば、スタッフの階層に応じたステージ別のスキルマップを作成し、評価と昇給の根拠を明確にする医院では、スタッフの定着率が高くなっています。また、院内での勉強会や外部研修への補助制度などがあると、中堅・ベテランスタッフも「ここで学び続けられ成長できる」と感じ、指導にも前向きに関われるようになります。
成長環境の整備は、給与以上に人材の心をつかむ投資といえるのです。
条件だけ整えると「条件だけを見る人」が集まる
「労働時間を短く」「給与を上げて」「家賃補助あり」「スタッフ用駐車場完備「福利厚生を厚く」と、条件面ばかりに注力すると、医院が目指す価値観に共感しない“条件だけで職場を選ぶ人材”が集まりやすくなります。そうなると、理念に基づいた医院運営が難しくなり、結果としてチームのまとまりや患者満足にも悪影響を及ぼします。
その一方で、「理念に基づく診療」「患者との信頼関係構築」「スタッフ同士の相互成長」を重視し、成長と働きやすさのバランスが取れている医院では、自然と価値観の合う人材が集まり、口コミや紹介による採用がうまく回る傾向があります。
理念やビジョンに共感し、「ここで働きたい」「ここで成長したい」と思われる組織づくりが、結果として経営の安定と発展に繋がっていくのです。
成長環境と働きやすさの“両輪”を整える
院長としての経営判断のなかで、労働環境の改善と並行して“人材育成の仕組みづくり”に投資することは、今や避けて通れないテーマです。特に中堅スタッフが活躍し続けられる場を用意することは、組織の成熟度を左右する重要な経営課題です。
まずは、以下のような施策から取り組んでみてはいかがでしょうか。
・中途採用者専用の育成カリキュラムの整備
・指導者養成プログラムの導入(ティーチング研修など)
・スタッフのステージ別評価制度の明確化
・院内外研修の年間計画と参加支援制度
・キャリアビジョン面談の定期実施
先生の医院では、「成長できる職場」として、どのような仕組みを整えていますか?
有資格者が安心して成長できる環境がある医院こそが、これからの歯科業界で選ばれ、支持されていくのです。人材不足という社会課題に対して、自院でどのような「育成」と「定着」のビジョンを描くか。その答えが、未来の経営を決めていきます。
先生の医院では、中堅・ベテランスタッフが「ここで成長し続けられる」と実感できる職場環境を築けていますか?
人が辞めずに成長を続ける歯科医院を作りたい場合には経営相談にお申込みくださいね。