地域の雇用市場は「業種横断型競争」の時代へ
近年、歯科業界における人材確保は、従来の「同業内競争」から、「地域全体での雇用競争」へと性質を変えています。特に郊外の歯科医院では、病院、企業・メーカー、介護施設、保育所など、他業種との人材獲得競争が激化しています。
例えば、ある地域の中規模歯科医院では、診療スタッフの採用面接に来る応募者数が前年比で半減しており、その背景を探ったところ、時給や勤務時間、育児との両立支援の面で他業種に劣っていることが判明しました。その結果、若手女性人材は「より働きやすい環境」を求めて他業種へと流出していたのです。
先生の医院では、他業種の給与水準や労働条件と比較した上で、自院の魅力をどのように伝えていますか?
このような背景から、単に「歯科業界だから」という理由だけでは人材を惹きつけることが難しくなっており、業種を超えた採用戦略が求められています。
医院の規模拡大=人材確保力の試金石
医院の成長戦略を考える際、「分院展開」「予約枠拡大」「チェア台数増設」などを検討される先生も多いと思います。しかし、こうした規模の拡大は「人材確保力」という前提なしには成立しません。
実際に、分院を開設したが歯科医師や歯科衛生士が確保できず、既存医院のスタッフを兼務させるしかなくなり、結果的に両院とも患者対応が不十分になったという事例もあります。つまり、成長の鍵は「規模」よりも「人」が握っているのです。
また、令和8年度以降の診療報酬改定においても、在宅歯科や地域包括ケアへの対応力が評価される流れにあることから、スタッフの教育・チーム医療の実践が、医院の経営戦略そのものと直結しています。
「働き続けたい職場」としての魅力づくりがカギ
では、歯科医院が人材を確保・定着させるためには何が必要でしょうか?
今や、単に給与を上げるだけでは不十分です。重要なのは「働き続けたい」と思われる職場文化の構築です。例えば、ライフイベントへの配慮(産休・育休の復帰支援や時短勤務制度、有給取得の推進)、キャリアパスの明確化(DHのスキルマップと評価制度)、日々の業務改善にスタッフが主体的に関われる仕組み(業務改善提案推進制度)です。
特に20〜30代の若手スタッフにとっては、「仲間との関係性」「学べる環境」「柔軟な働き方」が職場選びの決定打となります。ある医院では、院内勉強会を毎月開催し、スタッフ同士が教え合う風土を根づかせることで、「ここでなら成長できる」とスタッフの定着率が改善しました。チームビルディングが人材定着のカギとなるのです。
今でも「〇〇歯科医院でスタッフが複数人退職したらしい」という話を聞くことがありますが、スタッフが定着しない歯科医院は口コミが拡がりますので経営においては最大のリスクなのです。
ベテランスタッフは退職しないが新人スタッフが「1年の壁」「3年の壁」、中堅スタッフが「5年の壁」を超えられない歯科医院は要注意だと思います。ユニットはあっても予約枠を開けられない歯科医院は今後増えていくと思います。
ライフイベントで休んだり短時間勤務のスタッフが増えている場合にも、それをカバーしてあげられる収益を生み出せなければ賃上げさえ出来なくなるのです。
組織力が人材獲得力を生む
人材確保力とは、実は「採用の瞬間」だけでなく「育成と定着」まで含めた総合的な組織力です。そして、組織力はリーダーである院長の方針と覚悟に強く依存します。
自院の規模や理念に合った経営計画を立てる際には、「今いるスタッフが成長しやすい環境か」「これから入ってくる人が働き続けたくなる仕組みがあるか」を冷静に見直してみましょう。成長戦略は「売上を伸ばすための投資」ではなく、「人材が育ち、価値が生まれる基盤づくり」であるべきです。
先生の医院では、今後の人材確保戦略をどのように描いていますか?
人材確保は、いまや経営の最重要課題であり、その対策を先延ばしにすることは成長の選択肢を自ら狭めることになります。日本の医療改革の流れの中で、歯科医院が生き残るには、地域社会にとっての「価値ある職場」であり続けることが求められています。その為には採用し続けられる経営戦略が必要なのです。
先生の医院では、採用・定着・育成を統合した人材戦略を持っていますか?その実行体制は整っていますか?
詳しく知りたい場合には経営相談にお申込みくださいね。