自然発生の口コミに頼るのはもう限界です
「良い治療を提供していれば、いずれ口コミで患者が増える」——このような考え方は、理念ある院長ほど抱きがちですが、実際には多くの医院でそれがうまくいっていません。なぜなら、患者が自然に紹介してくれるケースはごく一部に限られており、大多数は「紹介していいのかどうか分からない」「紹介したい人がいない」「紹介する手段がない」という状態だからです。
特に郊外型の歯科医院では、周囲の競合も多く、自然発生的な紹介では来院数の維持すら困難なケースが少なくありません。これからの時代は、”口コミは戦略的に設計して生み出すもの”という認識が重要です。
先生の医院では、「誰に」「何を」「どのように」紹介してもらうか、明確に定義していますか?
「紹介・口コミ」には設計が必要です
紹介・口コミを戦略的に活用するには、まずターゲット(紹介を期待する人)とペルソナ(来て欲しい患者像)を明確にすることが鍵です。たとえば、近隣の大企業に勤務するビジネスパーソンをペルソナとしたいのであれば、その人たちが「同僚に伝えたくなる」ようなサービス・接遇・ツールを整える必要があります。
実際にあった成功事例では、以下のような施策が効果を上げました。
・医院の近くにある製薬会社の社員に向けて、「昼休みの短時間相談枠」を新設
・治療後に悩み解決ストーリーを伝える簡単な「診療レポート」を渡す(その患者と同じ悩みで作成)
・その患者に「〇〇さんのお悩みと同じお症状の患者さんの解決例です」「〇〇さんと同じような症状で困っている方が周囲にいらしたらお声がけください」とお願い
・紹介してくれた人にはサンクスカード(〇〇さんのお陰で、悩みを持つ人の問題をもう一人解決してあげられるという感謝)を送付し、感謝の気持ちと医院の理念を伝える
これらはすべて、“紹介したくなる導線”を事前に整えておいた結果です。
”紹介患者を増やす”は手段であり、”〇〇さんと同じ悩みを持つ人を救いたい”が目的です。
多くの院長は”手段”を”目的”の様に話しがちですので、スタッフに提案する時にはくれぐれも気をつけてください。
スタッフの「紹介文化」への共感を高めるには
紹介は患者との信頼関係だけでなく、スタッフのマインドセットにも大きく左右されます。「患者を増やしたいから紹介してほしい」という表面的な目的では、スタッフは心から動いてくれません。
重要なのは、「紹介=困っている誰かを助ける手段である」という理念と結びつけたメッセージを、院長自らが繰り返し伝えることです。たとえば、
・「○○さんみたいに悩んでいる人がいたら、ぜひ紹介してあげてほしい」
・「あの患者さんの笑顔が戻ったのは、スタッフ皆さんのおかげです」
といった声かけを日常の中に織り交ぜていきましょう。
心理学の「自己効力感(self-efficacy)」という理論でも、人は「自分の行動が他人の役に立つ」と実感した時に行動意欲が高まるとされています。紹介活動は、単なる業務指示ではなく、”医療人としての誇りを満たす行動”であると伝えることが肝心です。
私が、取り組んで半年後に口コミだけで子どもの新患を月20人以上増やすことが出来たのも、スタッフの「患者に喜んでもらいたい」という心に火がついたからです。
「紹介しやすいツール」の整備も必須です
戦略とマインドセットが整っても、患者が実際に紹介するには行動のハードルを下げる仕組みが必要です。以下のようなツール導入をおすすめします。
・紹介カード(QR付きの名刺、リーフレットなど)
・口コミ促進用POP(待合室やカウンセリングルームに設置)
・Googleマップに投稿しやすくするQRコード設置
・紹介キャンペーン
・スタッフからの一言案内テンプレート(診療後に伝えられるように)
特に「紹介したことをちゃんと感謝される」という感覚を患者が持つことがリピート紹介の鍵になります。サンクスカードや手書きメッセージは、地味ながら効果の高い方法です。
紹介したら商品がもらえるという方法は、人によっては紹介する事へのモチベーションを下げてしまいますのでお勧めはできません(景品表示法に抵触する可能性も)。
最後に:口コミは医院の価値観を写す鏡です
紹介・口コミは、医院に対する患者の“信頼”が形になったものです。つまり、「どのような人が紹介されてくるか」は、その医院がどのように見られているかの答えでもあります。集患数を目的とするのではなく、価値観を共有できる患者との出会いを増やすことを目的に取り組むことが、医院・患者・スタッフ三方よしの紹介戦略です。
先生の医院では、どのような価値観を持つ患者さんに、これからもっと来てもらいたいとお考えですか?そのために、どのような口コミ設計が必要でしょうか?