これまで歯科医院の地域貢献といえば、「在宅歯科」が中心とされてきました。しかし、近年の診療報酬改定や地域医療政策の流れを見ると、歯科もまた「生活習慣病の重症化予防」という国家的課題への貢献が強く求められています。
歯周病と糖尿病、心疾患の関係は広く知られており、口腔ケアの継続がこれらの全身疾患に与える好影響については、エビデンスも蓄積されています。今後の歯科医院には、こうした慢性疾患患者の治療・管理において「医科と連携する拠点」としての役割が期待されているのです。
「問診票」から始める生活習慣病マネジメント
連携の第一歩は、歯科の初診時問診票や歯科衛生士の施術時の情報収集から始まります。ここで生活習慣病(糖尿病・高血圧・脂質異常症・心疾患など)に関する情報を取得し、必要に応じて主治医へ照会・連携を行う体制が重要です。
たとえば、ある郊外の歯科医院(スタッフ15名)では、以下のような問診設計と運用で成果を上げています。
・「医科主治医の有無と治療中の病名(既往歴も)」「服薬状況」「血糖値・血圧の管理状態」等を定期問診票で確認(歯科衛生士が継続把握)
・歯周病の数値が基準を超えた場合は、口腔衛生指導のタイミングで医科の主治医と情報共有
・「糖尿病患者の歯周病管理レポート」を独自に作成し、定期的に医科の主治医へ提供
これにより、医科クリニックとの情報共有が進み、「患者の生活習慣病管理に貢献する歯科医院」として評価され、紹介や連携依頼も増加しました。
多職種連携・ICT活用で「管理チームの一員」に
生活習慣病は、単独の医師や歯科医だけで対応できるものではありません。薬局、栄養士、学校保健、介護支援専門員(ケアマネ)、行政の保健師など、多くの職種と患者の生活習慣を共有・改善していく体制が重要です。
ここに、ICTを活用した「情報共有の仕組み」が有効です。たとえば:
・電子カルテや患者情報共有アプリ(例:PHRシステム、地域連携システム)を活用し、患者ごとの生活習慣・口腔状況・治療目標を多職種で可視化
・定期的なオンラインカンファレンスで「歯科からの視点」を提供
・歯科衛生士が歯周病管理記録を「地域包括支援センター」と共有し、保健指導のタイミングとリンク
こうした仕組みが、単なる「歯の治療をする場」から、「生活習慣病マネジメントの拠点」への進化を後押しします。
ICTを活用した地域連携の取組みはまだまだ進んでいませんが、国が活用を重視していますので、将来的にはPHR(パーソナルヘルスレコード)で情報を共有しながら連携を進める時代はやってくるのです。
オンライン診療をどう活用すべきか?
歯科におけるオンライン診療は、対面診療の代替ではなく、以下のような「補完的支援」としての活用が有効です。
・糖尿病患者や高血圧患者に対して、自宅でのブラッシング状況把握
・口腔機能(遠隔地の場合)や口腔環境のオンラインチェック
・矯正相談
・口腔衛生指導や食生活アドバイスのオンラインフォロー
・医科主治医とのオンライン連携で、患者の口腔状況報告と対策協議を実施
これにより、通院が難しい高齢者や多忙な働き世代へのアプローチも可能になります(ICT活用は家族の協力が必要)。
「診療圏データとネットワーク調査」が信頼構築の鍵
歯科医院が「地域で頼られる存在」になるためには、属する診療圏の実態把握が欠かせません。以下のような地域診療圏・ネットワーク調査を行うことで、戦略的な連携構築が可能となります。
・人口構成・生活習慣病有病率(国勢調査、健診データ)
・医科クリニック・薬局・介護施設の立地と連携参加状況
・地域包括支援センターや保健センターの活動方針と活動実態(担当者の配置状況と熱意によって状況が違う)
・学校・保育施設における保健教育の実施状況
・ICT環境の整備状況(電子カルテ、PHR、連携プラットフォーム)
これらの情報を元に、「地域での連携先」「共有テーマ」「優先すべき支援対象」を明確化し、歯科側から働きかけていくことが重要です。
先生の医院では、生活習慣病に関する患者情報を体系的に把握し、医科・薬局・行政などとの連携の中で、どう歯科的に貢献するかの仕組みを整えていますか?
また、地域診療圏の構造や多職種ネットワークの実態を把握し、ICTを活用した連携体制の構築に着手していますか?
直接的には収益に結びつかないと思われそうですが、地域連携に参加して一緒に汗をかくから頼りにされる様になるのです。
あとは、やるかやらないか?
さあ、どうされますか?