今日は歯科医院の成長に必要な業務改善の5つの視点
1.オペレーション視点(業務効率化)
2.患者視点(サービス向上)
3.歯科医療としての視点(医療の質)
4.5S視点+安全視点(職場環境・感染対策)
5.マーケティング視点(集患・認知・ブランディング)
患者は「痛み」と同時に「不安」を抱えて来院しています
歯科医院に来院する患者さんは、単に「歯が痛い」という身体的な症状だけでなく、「治療が怖い」「説明が不十分だったらどうしよう」「高額な治療を勧められたら断れないかも」といった多くの心理的不安も抱えています。
特に、過去に嫌な経験をした方や、久しぶりの歯科受診となる方にとって、来院は小さな勇気の積み重ねです。初診の電話予約ひとつとっても、患者さんの心理状態は不安定で、「まずちゃんと話を聞いてもらえるか」というところから信頼の構築が始まっています。
それにもかかわらず、現場では「事務的な対応」が先行してしまい、患者さんが“受け容れられた”と感じられないやりとりが発生してしまうことがあります。
たとえば、
患者:「昨日の夜から奥歯がズキズキして……」
受付:「そうなんですね、当院での治療は初めてでしょうか? お名前をフルネームでお願いします」
というように、患者さんの不安や痛みへの共感が一言もないまま、手続き優先で進んでしまうケースです。
この「患者心理とのすれ違い」を減らすために、今注目すべき視点がカスタマージャーニーの整備です。
カスタマージャーニーマップで、患者の不安を見える化する
カスタマージャーニーマップとは、患者が最初に医院に関わる瞬間(例:Web検索や電話)から、治療終了後の定期来院までのプロセスを、患者の心理と行動に焦点を当てて整理した図です。
このマップを作成する目的は、以下の2点に集約されます。
1.患者の不安や疑問が生まれやすいポイントを特定すること
2.その都度、適切なコミュニケーションやフォローができるようにオペレーションを設計すること
たとえば、
・初診時には「来院前の緊張感」→ 安心感を与えるウェルカム対応と導入カウンセリング
・治療中には「痛みへの恐怖」→ 麻酔説明や手技中の声かけによる心理的安全性の確保
・治療完了後には「再発への不安」→ 定期管理の重要性を共有するエデュケーションとサポート
というように、患者が感じやすい感情の流れに沿って、どんな対応をすべきかをチーム全体で共有する仕組みです。
先生の医院では、患者が「不安を感じやすい場面」をチームで言語化し、対処法を話し合う機会を設けていますか?
患者視点のコミュニケーションをチームの「型」にする
効果的なカスタマージャーニー設計には、属人的な「気づき」だけに頼らず、院全体で再現性のある対応を仕組化することが求められます。
たとえば、
・「痛みを訴える患者には“◯◯”と声をかける」
・「治療内容が変わるタイミングでは、オリエンテーションを挟む」
・「初診時には問診票だけでなく“気になること”チェックリストを導入する」
など、患者の心理的安全性を守る対応フローをカスタマージャーニーに沿って設計しておくことで、スタッフ全員が迷いなく、同じ質の対応ができるようになります。
また、患者対応のカギを握るのは受付スタッフや診療スタッフ・DHの方々です。彼らが「なぜこの対応が必要なのか?」を理解していないと、形骸化したルールで終わってしまいます。
マップは現場目線で一緒に作成し、理念と照らし合わせて意味づけするプロセスこそが、組織力の源泉になるのです。
「歯周病の安定期治療以降」のカスタマージャーニーにも注目を
実は、カスタマージャーニーが最も力を発揮するのは、基本治療完了後の「重症化予防フェーズ」だと私は考えています。
たとえば、歯周基本治療を終えて安定期治療に移行した患者さんに対して、
・「次回からは重症化予防のための治療に移行します」
・「1~3ヶ月に一度のご来院とセルフケアで歯肉の状態の改善や進行を止めることができ、歯を失うリスクも低減できます」
・「これからはお口の健康を“守る医療”に一緒に取り組んでいきましょう」
・「口臭や着色などどこか気になる点はありますか?」「これからは治療を続けながらお口を美しく保つことも一緒に考えていきましょう」
といった未来志向の説明ができている医院は、定期来院率が高く、キャンセルも少なくなっています。
重症化予防の重要性を患者が本当に理解するには、“基本治療完了”という山を越えたあとにどんな価値があるのかを伝えきる必要があります。その設計にも、カスタマージャーニーマップが効果的です。
先生の医院では、基本治療が終わった患者の“その後の旅”をどう描いていますか?
最後に:マップは「設計図」であり「対話のきっかけ」
カスタマージャーニーマップは、単なる図ではなく、患者と医院、スタッフ同士が信頼関係を築いていくための設計図です。
業務改善と聞くと、効率化やルール整備に目が向きがちですが、患者視点に立った感情設計こそが、三方よしの医療経営の根幹を支えます。
ぜひ、先生の医院でもスタッフとともに患者の「旅」を想像し、そこに寄り添うマップを描いてみてください。小さな設計の見直しが、信頼という大きな成果につながっていきます。