今日は歯科医院の成長に必要な「オペレーション視点」。
1.オペレーション視点(業務効率化)
2.患者視点(サービス向上)
3.歯科医療としての視点(医療の質)
4.5S視点+安全視点(職場環境・感染対策)
5.マーケティング視点(集患・認知・ブランディング)
治療と診療、二つのデジタル化が加速する時代へ
歯科医院を取り巻く環境は、今まさに大きな転換点を迎えています。特に注目すべきは「デジタル化の二極化」です。一つは治療のデジタル化。インプラントのデジタルガイドや光学スキャナー、3Dプリンターの導入など、診断から技工、治療計画に至るまでのデジタル化が進んでいます。近年では、AIによる診断補助も現実味を帯びてきました。
もう一つは診療システムのデジタル化です。2024年度の診療報酬改定では「DX体制加算」が新設されるなど、オンライン診療や電子カルテの標準化、レセプト請求の電子化など、院内業務のIT化が推進されています。人材不足への対応や業務効率化の観点からも、今後ますます導入が求められる分野です。
しかし、これら二つのデジタル化には大きな落とし穴があります。それは「導入コストに見合う収益が得られるか」という視点です。
導入するか否かのカギは「収益化できる力」があるかどうか
治療のデジタル化は、単に機器を導入すれば良いというものではありません。たとえば、かつてデジタル技工とワンデイトリートメントの導入が注目された時期がありましたが、実際にそれを収益化できた医院はごく一部でした。
原因は明白で、「機器を使いこなすスキル」と「患者に魅力的に伝えるパッケージ力」が不足していたからです。単なる技術として導入しても、それが患者に価値として届かなければ、宝の持ち腐れになってしまいます。
先生の医院では、これから進むデジタル化にどのように対応されるご予定でしょうか?
一方で診療システムのデジタル化も同様に、受付や説明、経過フォローなどを自動化・効率化するためのシステムは登場していますが、初期導入コストとランニングコストは決して安くはありません。「便利そうだから」で導入すると、費用倒れになるリスクは非常に高いのです。
中規模医院が直面する「分岐点としてのデジタル化」
小規模な歯科医院であれば、むしろアナログ力の強化という逆張り戦略が有効です。例えば患者との密な関係づくりや、カウンセリング・説明・接遇など、いわゆる「密着軸」を磨くことが、差別化につながります。患者データを自分たちの脳にインプットし人の手で丁寧に関わることこそが価値になるのです。
一方、大規模な医院であれば、DXの推進は必然です。患者の入口はWEB経由が主流となり、若い世代は「予約・相談・診療」がオンラインで完結することを求めています。規模がある分、投資への回収も比較的しやすく、組織全体で運用していく体制も整えやすいでしょう。
では中規模の医院はどう判断すべきか。これが一番悩ましいポイントです。患者層が高齢化していたり、専門性や地域性によってデジタルニーズが低かったりする場合、投資しても見合う収益が得られない可能性があります。逆に、医院の強みと地域ニーズがマッチしている場合は、先手でデジタル化を進めることが競争優位になります。
経営判断の軸は「医院の強み × 地域のニーズ」
大切なのは、「IT・DXの導入が目的にならないこと」です。あくまでそれは業務改善や患者満足度向上の手段であるべきです。以下のような観点で検討を進めてみてください。
・先生の医院の主な収益源は何か?
・来院している患者層のニーズはデジタル化とマッチしているか?
・院長ご自身や勤務医の治療技術・専門性は何か?
・地域における医院のポジショニング(差別化軸)はどこか?
これらを踏まえた上で、デジタル化を進めるべきか、もしくはアナログ戦略で深く関わる医院像を目指すべきかを判断していく必要があります。
DXは「導入して終わり」ではなく、「活用して価値を生む」ことがゴール
最後にもう一度確認しておきたいのは、IT・DXツールはあくまで経営戦略を実現するための手段であるということです。「導入したのに使いこなせない」「結局現場が混乱しただけだった」というケースは少なくありません。
スタッフの教育体制、患者への周知、業務フローの見直しなど、仕組みとして根付かせるマネジメント力が求められます。とくに中規模医院では、導入後の運用フェーズをどれだけ戦略的に設計できるかが、成功の分かれ道となるでしょう。
デジタル化を進めるか否か。それは医院の未来を左右する経営判断の一つです。機器やサービスの「便利さ」や「最先端」に目を奪われすぎず、あくまで医院・患者・スタッフ三方よしの視点から、慎重に、そして前向きに検討していただければと思います。