今日は「数字の裏側にある“経営の真実”」シリーズ最終回です。
これまでのブログでは、
「数字を追うだけの経営」から脱却し、
「理念 × 人間軸 × 成長」を基盤にした経営への転換をお伝えしてきました。
最終回となる今回は、
理念を“スローガン”ではなく“文化”として根づかせる方法について、実践的にまとめていきます。
① 理念経営が「うまくいかない」医院の共通点
理念を掲げている歯科医院はたくさんあります。
しかし、それが“現場で生きている”医院は意外に少ないのです。
よくある状況として
・ホームページや壁に理念は書かれている
・スタッフミーティングで読み上げてはいる
・けれど、日常の判断や言動に反映されていない
つまり、「理念が理念のまま」になっているのです。
なぜでしょうか?
それは、理念を経営計画や行動設計に“つなげていない”からです。
理念は“心”ではなく、“仕組み”で体現される。
理念経営が機能する医院とは、
理念 → ビジョン → 経営計画 → アクションプラン → 行動が一本の線でつながっている医院です。
② 理念が文化として根づく3つの段階
理念がチーム文化として根づくには、段階があります。
私はこれを「理念の3段階進化モデル」と呼んでいます。
第1段階:理念を“理解する”
まずは院長自身が理念を明確に言語化し、スタッフが理解できるように共有する段階です。
「うちの医院がなぜ存在するのか」
「患者にどんな未来を提供したいのか」
この問いに、全員が同じ言葉で答えられることが出発点です。
第2段階:理念を“実感する”
理念は「共感」だけでは続きません。
日常業務の中で体感できて初めて“血肉化”されます。
たとえば、
・「ありがとうカード」で理念行動を見つけて称賛する
・朝礼で“理念に基づいた行動”を共有する
・面談で“理念をどう実践できたか”を振り返る
理念を“感じる仕掛け”を日常に埋め込むことで、スタッフが「自分も理念の一部だ」と実感できるようになります。
第3段階:理念で“判断する”
理念が真に根づくのは、
スタッフ一人ひとりが理念を判断軸にできるようになったときです。
・「患者さんが安心できるか」
・「医院の信頼を高める判断か」
・「三方よしの判断か」
こうした“理念に基づいた意思決定”が、院長不在でも自然に行われる。
ここまで到達したとき、理念は「文化」になります。
③ 理念を文化に変える「三方よしの経営構造」
理念経営を成功させるには、理念を“3方向の価値”に変換する必要があります。
(1)患者よし: 医療の本質を見失わない
・患者の健康・安心・信頼を中心に置く。
・「売上」ではなく「信頼残高」を指標にする。
(2)働き手よし: スタッフの成長と幸福を重ねる
・理念の実践を通して、スタッフが自尊感情を高め、仕事の意味を感じられる仕組みをつくる。
(3)社会よし: 医療人としての使命を果たす
・地域の健康づくり・教育・予防啓発など、“医院の外”にも理念を広げる。
この「三方よし」の経営構造が確立すると、医院は“理念で動き、数字が後からついてくる”状態になります。
④ 理念がスタッフの“内発的動機”を生む理由
心理学的に言えば、理念経営が機能するのは「自己決定理論」と関係しています。
人が自ら動く3つの要素は、
1.自律性(自分で選んでいる感覚)
2.有能感(成長を感じる感覚)
3.関係性(仲間とつながっている感覚)
理念は、この3つを自然に満たします。
・自律性 → 理念に共感し、自分で選んで働く
・有能感 → 理念行動が評価され、誇りを感じる
・関係性 → 理念が共通言語になり、チームの絆が強まる
つまり、理念経営とは“心理的に人が最も成長できる構造”なのです。
⑤ 院長がやるべき3つのこと
(1)「理念を翻訳」する
理念を日常業務に落とし込み、
「今日の診療で理念を体現するとは何か?」を言語化して伝える。
(2)「理念行動」を見つけて承認する
スタッフが理念に沿った行動をしたとき、その瞬間を言葉にして承認する。
理念は“承認されたとき”に浸透します。内発的動機がスタッフに生まれる前の段階では「承認の力」を使う事も有効です。
(3)「理念を語り続け見本を見せる」
理念は繰り返しによって深まります。
スタッフが入れ替わっても、院長が理念を語り続ける限り、医院の魂はブレません。
そして院長が理念行動を実践し続けていることが必須なのです。
例えば、院長が丁寧に治療説明をおこなう医院のスタッフは同様に患者が納得する説明を心がけます。
スタッフに理由を聞いてみると「院長が患者さんに丁寧に説明されるから」と答えてくれたのです。
これらの取組みが機能するとスタッフは自分たちで考え、良い意味で「自分達で考え勝手に行動する」様になります。
院長がコントロール力を段階的に手放していくことによってスタッフが考え始め、ダメ出しをされない事によって行動が生まれるのです。
まとめ
理念経営とは、スタッフに理念を「理解させる」ことではなく、「理念が息づく医院」をつくることです。
理念は教えるものではなく、体験させるもの。
理念は伝えるものではなく、浸透させるもの。
理念は飾るものではなく、動かすもの。
数字は医院を動かす力を持ちます。
しかし、理念は医院を導く力を持ちます。
理念を中心に据えた三方よし経営こそ、医療の品質、経営の安定、そして人の幸福を同時に実現する唯一の道なのです。
先生の医院ではどうでしょうか?
1.先生の医院の理念は「言葉」になっていますか?
2.スタッフが理念を“感じる瞬間”を意図的に設計していますか?
3.理念が“判断の軸”になっていますか?
4.三方よしの視点から経営の仕組みを設計していますか?
5.理念を、今日の診療にどう生かしますか?
理念が文化になるとき、医院は成長を超えて“進化”する。
経営の目的は、数字ではなく“意味”をつくること。
理念がチームを導き、数字がそれに応える。
そんな歯科医院を、私は一緒に増やしていきたいと思います。
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