「医院の器」に見合った人材が集まってくる
採用の現場でよく耳にする言葉のひとつに、「最近、応募してくる人のレベルが下がっている気がする」というものがあります。ですが、この言葉の裏には、医院の“今の状態”が反映されていることを見落としてはいけません。
歯科医院には、その器に見合った人材が集まります。ここでいう器とは、臨床レベルや給与といったわかりやすい外的要因だけでなく、医院の文化、学びの風土、チームとしての成熟度なども含みます。特に、成長意欲の高い人材は、自身が成長できる「環境」に敏感です。医院の風土が「停滞」していれば、たとえ条件が良くても心が動きません。
先生の医院では、日常の診療や会議の中で、「この医院はどんな価値観を大事にしていて、どんな成長の道筋を用意しているか」をスタッフと共有できていますか?
成長しようとするスタッフの足を引っ張る「無意識のフタ」
院内に成長意欲のあるスタッフがいたとしても、その芽を摘んでしまうケースがあります。たとえば、勉強会の提案を却下したり、業務改善のアイデアを否定したりする「お局スタッフ」や、「今のままでいい」と進化を止めてしまった院長がその例です。
こうした構造は、組織論でいう「システムの自己保存」と呼ばれ、変化を恐れる組織が無意識に現状維持を選ぶ現象です。成長したいスタッフにとって、これは大きな壁になります。何度提案しても否定されるうちに、やがて「ここでは成長できない」と限界を感じ、優秀な人材ほど転職を視野に入れるようになるのです。
逆に言えば、成長するチームを作るためには、「成長の邪魔をしない」ことが第一歩。意見を受け止める風土を作り、スタッフの挑戦を応援する姿勢が問われます。
成長できない環境にいると、人は「転機」を感じ始める
自分が成長できていないと感じているスタッフも、ある時ふと気づきます。「このままでいいのだろうか?」と。キャリア心理学では、このような内省が起きるタイミングを「キャリアの転機」と呼びます。
この転機がポジティブな変化につながるか、離職という選択になるかは、医院がどれだけ成長機会を提供できているかにかかっています。研修制度、評価制度、フィードバック文化。これらが整備されている医院は、スタッフの自律的成長を促し、転職ではなく「ここでもう一度がんばろう」と思わせることができます。
採用に必要なのは、「魅力的なポジション」と「厳しさ」の両立
優秀な人材を採用するには、まず医院が「成長意欲の高い人が目指したくなる環境」になっているかを見直す必要があります。口コミが広がりやすい歯科医療業界では、学校や前職のつながりを通じて、医院の実態はすぐに広まります。
外部研修の費用補助や、スキルアップを後押しする制度など、いわゆる「衛生要因」の整備は当然のことながら、それだけでは不十分です。
本当に採用戦略として効果を持たせたいなら、「この医院は本気で成長が求められる」と思わせる文化を作ることが不可欠です。つまり、「選ばれる医院」になるには、環境の魅力と一定の厳しさの両立が求められるのです。
「誰でもいい」ではなく、「誰を選ぶか」の視点を
結局のところ、有能な人材を得たいなら、医院のレベルを上げて、「応募のハードルを上げる」ことが鍵となります。誰でもいいから採用する、という姿勢では、医院の未来を担う人材は集まりません。
「どんな人に来てほしいのか」「その人が来たいと思える医院になっているか」
この問いを、ぜひ先生自身が今一度見直してみてください。
成長を止めない医院には、自然と成長意欲の高い人材が集まり、医院、患者、スタッフの三方よしの循環が生まれていきます。
先生の医院は、「成長意欲が高い人材が応募したい医院」になっているでしょうか?