「好き嫌い」で人を見るのは当然?でも、それだけで大丈夫ですか?
歯科医院に限らず、院長という立場でスタッフを採用する際、無意識のうちに「好ましいタイプ」と「苦手なタイプ」で人を分類していることは少なくありません。これは決して院長だけが特別という話ではなく、私たち人間の誰もが持つ自然なバイアスです。採用面接の場では応募者も自身をよく見せようとするため、余計に「感じがいい人=良い人材」と錯覚しやすくなります。
私が歯科医院のサポートを始める際、スタッフの行動特性を診断すると、面白いことに多くの医院で「似た傾向の人材」が集まっていることがわかります。院長と似た価値観や性格を持った人たちで構成されたチームは、確かに居心地が良く、コミュニケーションもスムーズです。しかし、それが必ずしも「機能するチーム」とは限りません。
先生の医院では、採用の判断基準について話し合ったことがありますか?
「相性重視」の採用がチームにもたらす影響
院長との相性を重視して採用を進めると、組織には2つのパターンが生まれやすくなります。
1つ目は、「課題達成力は高いが、人間関係の摩擦が多く、離職率も高い組織」です。目標に向かって突き進むタイプのスタッフばかりを好んで集めると、成果は出せても、チーム内に余裕や配慮が足りず、人が定着しづらくなります。
2つ目は、「仲は良いが成果が出にくい組織」です。院長の価値観に共感し、雰囲気の良い人材を好んで採用すると、居心地の良いチームにはなりますが、新たな挑戦や改革が起きにくく、経営的な成果につながりづらくなります。
こうしたバランスの偏りは、いずれも長期的には組織の成長を妨げてしまいます。
心理的安全性を高めるカギは「多様性の受け入れ」
ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱する「心理的安全性」は、チームの生産性や創造性を高める重要な要素として注目されています。その中でも、「新奇歓迎」や「多様性の受け入れ」が大切なキーワードです。
しかし現場では、「異質な存在」を受け入れることは簡単ではありません。院長に限らず、スタッフ同士の間でも「なんとなく合わない」「変わった人」という理由で距離を取ったり、評価を下げたりするケースがよく見られます。
院長と行動特性が異なるスタッフが、実は患者対応で高い能力を発揮していたとしても、その点が院長にとって重視されていなければ、全体評価には反映されません。その結果、「組織に合わない人」が自然と離れていき、似た者同士だけが残る、という循環が生まれるのです。
「好き嫌い」を超えて、機能するチームを作るために
人間が感情や相性を無視して客観的に判断するのは難しいことです。しかし、院長が組織をより高い次元へ導こうと考えるなら、その「限界」を認識しておくことが出発点になります。
機能するチームには、「成果を出す人」「和を保つ人」「問題に気づく人」「新たな視点を持ち込む人」など、多様な役割を持つ人材が必要です。院長との相性だけで人材を選別していると、こうした多様性が欠けたチームになりがちです。
大切なのは、「自分とは違うタイプの人材」こそ、チームに必要な役割を担うかもしれない、という視点を持つこと。そして、組織として「異質な存在」を受け入れる風土を育てることです。
先生の医院では、どのような多様性を受け入れる準備ができていますか?
採用・評価・育成の仕組みに多様性の視点を
多様な人材を受け入れる文化は、理念だけでは実現しません。具体的には以下のような仕組みづくりが鍵となります。
・行動特性や価値観を可視化するツールの導入
院長とスタッフの特性を客観的に理解することで、「なぜ合わないと感じるのか」を整理できます。
・評価制度の多軸化
院長が重視する項目だけでなく、チーム全体で必要とされるスキルや役割を評価に組み込むことで、多様な力を活かせます。
※客観性は担保できませんが・・・
・育成カリキュラムの整備
自分と違うタイプのスタッフにも、組織の中で力を発揮してもらうための育成設計が重要です。
・定期的なチームレビューの実施
メンバー構成やバランスを定期的に見直すことで、偏りに気づく機会を持てます。
まとめ:人を見る視点をひとつ広げることから
私たちは無意識のうちに「自分にとって心地よい人」を選び、「違和感のある人」を避けてしまいます。しかし、経営とは多様な価値観と可能性を統合する仕事です。
「好き嫌い」の感情を持つこと自体は否定しません。けれど、それだけを判断基準にしないことが、強くしなやかなチームづくりへの第一歩になります。
院長の価値観と共鳴しながらも、あえて「異なる力」を受け入れる。この視点こそが、これからの医院経営に求められるマネジメント力ではないでしょうか。