第1回で触れたとおり、2040年に向けて、働く世代の人口は減っていきます。歯科衛生士や勤務歯科医師の採用は、これから一段と難しくなると考えられます。
採用の難しさに直面したとき、多くの院長は、求人媒体や条件の見直しから考えます。しかし、それだけでは足りません。今回は、採用で選ばれる医院になるために、院長が整えておくことを論じます。
応募者は、医院の何を見ているの?
応募者がまず重視するのは、賃金、土日祝の出勤、有給の取得、賞与、勤務終了時間、残業、子どもが病気のときのフォローなど、自分が働いたらどうなるかを示す条件です。次に、院長の人柄が気になり、医院見学では院長の人柄とスタッフ間の人間関係を見ます。教育研修制度の充実度も重視されます。実際に医院見学で「院長はどんな方ですか?」「スタッフ間は仲が良いですか?」と聞く応募者は一定数います。また、有給の取りやすさや給与面だけを主に聞き、医院の治療方針などは聞かない応募者もいます。
とくに歯科衛生士や勤務歯科医師は、学校の同期からの情報や勉強会コミュニティの口コミで、比較的大きな医院の待遇、教育環境、離職の状況を事前に知っていることが多いと感じます。だから離職者が多い医院は、応募の前に敬遠されてしまいます。採用は、面接の前から始まっているのです。
採用で、最初に整えておくことは?
採用で大切なのは、医院の考えや方向性を正しく伝え、応募者の考えとのアンマッチを防ぐことです。「とにかく採用したい」という院長のお気持ちも理解できますが、医院に合わない人を採用するとトラブルの素です。これからの歯科医療の発展と経営の発展を考えると、スタッフが継続的に成長するための負荷を、受け入れてもらうことが不可欠だからです。
ところが、詳細な教育カリキュラム、マニュアル、スキルアップの研修制度が整っておらず、上手に制度運用が出来ていないのにも関わらず、募集の文書や面談では「分からないことは何回でも聞けます」「皆が優しく指導します」と伝えてしまうことがあります。その言葉を信じて働くことを決断した時間をかけて教えてほしい人はその後どうなるのでしょうか。入職後には厳しい現実が待っています。制度がある程度整っていてメンター制度がある医院でも、その仕組みが上手く機能していないことも多いのです。そうなると応募者にとっても、医院にとっても、不幸な結果になりかねません。
伝え方を変えると、何が変わるの?
私は、次のような順番で、正直に伝えることをお勧めしています。まず、医院が歯科治療のレベルを上げたいと考えていること、だから最初は教育カリキュラムについていくのがやっとかもしれないことを伝えます。そのうえで、復習や予習をすれば必ず身につく内容であること、親身に教えてくれるメンター(バディ)がいて、指導状況は常に幹部会で話し合われて改善に繋げていることを伝えます。
さらに、最初は不安であっても3か月でできることが少し増え、6か月で基本的なことが実行でき、1年を超えると対応できる範囲が広がって自信がつく、という見通しを示します。そして、私たちと二人三脚で成長を楽しんでほしいこと、時間をかけて患者を健康に導けるプロを目指して欲しいことを伝えるのです。ただ、当院の教育のしくみにはまだ改善点があり、教育を受けたあなたの意見を聞きながら、迅速に改善していきたいことを添えます。大切なのは先生が用意した船を魅力に感じて乗る覚悟をしてくれるか?です。先生が用意した船が魅力的でなければ採用条件だけに反応した人材が集まりやすくなります。
教育制度は、なぜ後回しにされやすいの?
零細規模や小規模の医院では、院長のマネジメント力で、ある程度はカバーできてしまうからです。各種制度の整備が進むのは中規模以降ですが、その規模になると院長の多忙さが極まり、経営とマネジメントに悪影響が出始めます。そして、院長は組織化と教育制度の整備の重要性に気づくのです。
実際には新人教育はしっかりしている医院でも、中堅前のスタッフが継続的に成長できる仕組みが作られていないことも多くあります。だから中堅になる頃に「青い鳥」を探し出したり、ライフイベントを終えて医院に戻るイメージが沸かなかったり(ロールモデルがいないなど)するのです。
教育は、いつから必要になるの?
教育は、組織が立ち上がったときから必要です。そして、医院の規模の拡大に合わせて、複雑に、高度になっていきます。出すべき成果に応じた教育のレベルと実践の経験を身につけていない人材は、実際に成果を出せないからです。
最初は、売上を上げて借入金を減らすことに、院長の頭がいくのは仕方のないことです。規模が拡大して経営が安定してきて、はじめて質の改善の必要性に気づく。そんな院長が多いのだと思います。ただ、採用で選ばれる時代には、この気づきの時期を、早める必要があります。医院経営の「成功」と「失敗」の分岐点はどんどん短くなっています。開業時の初期投資と経営維持コストが増大している時代。チームを早期から鍛え上げて歯科医療の質と経営の質を高めていくスタートダッシュは不可欠なのです。金利の上昇も続くことも忘れてはなりません。
先生の医院の募集の文書と面談の説明は、入職後の現実と一致しているでしょうか。
次回は、賃上げの原資を生み出せないリスクを論じます。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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