「いまの医院からの収入でスタッフに給与も払え、自分も生活できているし、今後も何とかなるだろう」。人口の減少が進み始めている地域で長く診療してきた院長の多くが、こう感じておられるのではないでしょうか。
この感覚は、決して珍しいものではありませんし批判されるものでもありません。ただ、2040年に向けて、診療圏は静かに、しかし確実に変わっていきます(人口減少と経営環境変化には私なりの進行度合い基準表があります)。今回は、その基準表を基に変化に対応するべき院長像と、院長の判断を鈍らせてしまう心の働きを論じます。
診療圏は、2040年に向けてどう変わっていくの?
現状を調べたところ、国土交通省が2014年に発表した「国土のグランドデザイン2050」では、現在の居住地域の約2割が、2050年には無居住化する見通しが示されています。人口の減少は、地域によって速さが大きく異なります(発表から時間が経過し地域によっては状況の変化がありますが・・・)。
2040年のビジョンから導き出された新地域医療構想ガイドラインによれば医療提供体制も変わります。ガイドラインでは、2028年度までに、2040年に向けた構想を医療構想調整会議での協議を経て都道府県が策定するとされています。骨太の方針2026にも、医療機関の連携・再編・集約化を促す方向が示されました。
人口20万人規模の中心部(地方公共団体ごとではない)に、中核機能を持つ病院や各種のインフラが集まっていく流れのなかで、中心部から離れた地域ほど、プライマリケアの維持が難しくなっていきます(医療MaaSなどでカバーする方向性)。
また、国の指針などでは歯科に特化した記載は限定的ですが、生活習慣病などの治療と管理における医歯薬学連携や訪問歯科を含む多職種連携は、歯科領域の役割として重視されています。
現時点の私の予測ですが、歯科医院は従来の決められた枠だけに固執するのではなく、地域が変化し多様化していくニーズの中で自院が担う役割を、院長自身が選び経営を組み立てる時代に入っていくと考えられます。つまり、診療圏(特に過疎地)によっては従来の診療を続けていると冒頭の「何とかなる」が成立しない可能性が高くなると思うのです。大都市部の診療圏は過疎地とは違った、地域医療構想による経営の息苦しさが進行するのですが、それについてはまたの機会に書きます。
なぜ、院長は「まだ大丈夫」と考えてしまうの?
人口減少が続く地域で経営が低迷している院長の多くは、「現状維持バイアス」に縛られているように感じます。現状維持バイアスとは、変化を避けて、いまの状態を続けたがる心の傾向のことです。
実際には、多くの院長が医院の現状を詳細な数値で見える化していません。数値と計画で未来の可能性を明らかにしてもいません。明確にしようとすると脳に負担がかかり、不安が増すため、無意識のうちに現実から目をそらしてしまうのです。これは院長の弱さではなく、人の自然な反応です。
さらに、医院経営がうまくいっていた時代の経験が、判断の邪魔をします。これまで投じた時間や資金を惜しむ「サンクコスト効果」と、過去にうまくいったやり方を信じ続ける「成功者バイアス」です。
私も含めて多くの人がこの「認知バイアスの罠」にはまり易いのです。
現実から目をそらさずに済む、最初の一歩とは?
その現状から抜け出す最初の一歩は、医院の現状と未来を、数値で見える化することです。「不安」は未来が見えないと生まれやすい感情です。見える化しないまま不安だけを抱えていると、判断を先送りするたびに、選べる道は狭くなる。「不安」は私たちに対応の必要性を知らせてくれているのです。
たとえば、見える化するのは診療圏の人口動態と年齢構成の推移、2040年の人口動態予測、来院患者の居住地と年齢の分布、新患数・継続来院患者数の推移などです。まずは数値を並べて、5・10・15年後の診療圏の姿を、ご自身で描いてみてください。
逃げ切り世代以外、15年後も診療を続けている可能性が高い院長には現実と向き合い、経営者として「プライマリケアとどう向き合い、地域での存在感を高めるのか?」について考え、戦略、戦術、計画に落とし込んで頂ければと思います。
院長の年齢と立場で、判断はどう変わる?
院長が65歳以上でリタイア後資金も貯まり、医院の承継を考えておられない逃げ切り世代であれば、人口が減る地域で新たなチャレンジをして、貴重なリタイア後の資金を減らす必要はないと思います。無理をしないでプライマリケアにおける役割を果たすことも、立派な経営判断です。
一方、若い院長が過疎地で開業された場合は、全力で経営戦略を立て、経営リスクを回避しなければ、未来は切り拓けません。取り得る選択肢には、移転、地域連携の強化と訪問診療による診療圏の拡大、自費の強化による診療圏の拡大、大きな需要の中でのニッチなポジショニング、院長の年齢によっては戦略的な縮小なども選択肢に入ります。もちろん、医院の経営資源確保の現状と未来予測をしっかり考慮して戦略を立ててくださいね。
どの道を選ぶにしても、地域環境変化の未来予測と数値による医院の現状の把握が出発点になります。零細規模や小規模の医院では、院長ご自身が診療圏の数値を見て判断します。中規模以上の医院、とくに小規模な分院を複数持つ医院では、有能な専門家のサポートを受け、明確な分院展開戦略を法人として持つことが問われます。
先生の医院の診療圏は、5・10・15年後にどうなっているでしょうか。その姿を、数値でご説明できますか。
次回は、医院が採用で選ばれなくなるリスクを論じます。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
![]() |
|
![]() |
|
![]() |

















