大学病院周辺で進む、医科の再編が示すもの
東京都の区中央部は、大学病院や高度急性期病院が超過密に林立する特殊な地域です。新たな地域医療構想が進める「人口20万人に急性期拠点1カ所」という基準をそのまま当てはめれば破綻するため、大学病院は広域拠点として別枠扱いされる一方、その周辺にある中規模の急性期一般病院は、急性期機能を維持できる実績を残せず、多くの急性期病院は高齢者救急や回復期へ機能転換、または近隣の病院との再編統合という厳しい選択を迫られています。
この医科の再編は、歯科医院にとって無関係な話ではありません。最新設備を維持し、有能な人材の海外流出を防ぐには、従来の診療報酬体系のままでは立ち行かないという構造的な問題は、医科も歯科も共通しています。大学病院やその後を受ける病院が厳しい経営環境に置かれる中、区中心部の人件費・採用費・家賃・建築単価を含む経営コストは上昇を続けます。そして金利上昇も進んでいる。保険診療という自由に値上げができない公的価格の中で経営を続ける歯科医院にとって、このコスト上昇は経営体力を確実に削っていきます。特に東京の23区中央部は深刻です。
「自費強化」は誰もが勝てる戦場ではない
東京都の区中心部では保険診療だけでは採算が合わない状況が続き、自費治療に活路を見出そうとする院長が更に増えています。しかし自費治療の領域は、経営力のある強者が得意とするバトルフィールドです。誰もがそこで勝てるわけではありません。
区中心部に近づくほど、スキミング戦略(高価格・高付加価値で特定層に絞り込む戦略)を理解し、富裕層との人脈を築ける院長、ブランド化戦略が得意な経営力の高い院長が適応しやすい環境になります。逆に、経営力に自信のない院長が「人口が多いから」という理由だけで中心部に近づくことは、避けた方が賢明です。前者は自費価格を値上げしても集患でき紹介患者も来ますが、後者は値上げできないし、値上げが患者離れに繋がるからです。
自院の経営資源を棚卸しし、23区内でも勝てるエリアと歯科医療需要を冷静に選ぶ視点が必要です。また、区中心部に住む人の口腔内の状態は比較的良好ではありませんか?だから今後、区内中心部の自費補綴需要はどれくらい拡大していくのか?中心部への通勤者も含め、周辺地域から患者を集めることは可能か?という視点も忘れてはならないのです。経営環境を見れば矯正や自費補綴以外の需要も多いと思うのですが・・・。
そして一方で、23区外の方が経営環境を整えやすいという現実もあります。立地の「人気」と「経営のしやすさ」は、必ずしも一致しません。
目指すべきは「ちょうど良い田舎」かもしれない
東京都の区中心部でも大都市でもなく過疎地でもない、20年後も主だったインフラを確保できる「ちょうど良い田舎」。このポジションが、実は経営戦略を立てる上で最も適していると私は感じています。過度な競争に晒されず、かつインフラの縮小リスクも低い。人の採用も程々に可能で、家賃や人件費、物価上昇も大都会より抑えられている。そんな中間的な立地こそが、多くの院長にとって現実的な経営判断の落としどころになり得ると思うのです。強者はレッドオーシャンで勝抜く戦略を持ち、弱者は弱者が勝てるバトルフィールドを選ぶ。それがマーケティングにおける原則です。「投下したばコストを賄い次期投資に回せるだけの収益構造を作れるか?」が院長に問われますので、歯科医院経営において経営力が足りていない院長が間違ったバトルフィールドに踏み込むことは不幸を生む要因になるのです。特に医師・歯科医師過剰地域で診療されている場合、医療機関の自然淘汰や統廃合が進んだ方が行政としては有難い。地域に必要な医療機能はしっかり確保し、過剰な医療機能や医療設備は減らしていく方向に進みますので、該当地域では経営の難易度が上がっていくと思われますのでご注意ください。保険医療機関の護送船団方式は終わりを告げたのです。
シリーズを振り返る—地域によって、正解は変わる
このシリーズでは、国の医療政策が歯科医院経営に与える影響を、過疎地域・地方都市・大都市部・東京23区中心部という四つの類型で論じてきました。地域医療構想が求める医療機能への対応、人材採用の可能性、都市ブランドの恩恵、そして経営コストの上昇圧力。これらすべてが地域によって異なる形で現れます。
大切なのは、自院が置かれている地域を正確に読み、院長の経営力と経営資源、そしてその地域に合った経営戦略を選ぶことです。先生の医院は今、どの地域類型に位置し、どの戦略が現実的な選択肢になりますか。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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