公的価格の中で、歯科医院はどう生き抜くか
人件費や物価、金利が高騰し、そのコストを吸収できるほど診療報酬は上がらない。そんな経営環境の中で歯科医院が生き抜いていく方法について今回は考えてみたいと思います。
一般的な業種で売上を伸ばす方法は主に四つあります。買ってくれる人を増やす、購買品数を増やす、価格を上げる、来店頻度を増やす。この四つです。しかし歯科医院には、診療報酬という公的価格の制約があります。治療行為への評価がもともと低く設定されているため、多くの医院は時間当たり・ユニット当たりの生産性向上、すなわち治療時間の短縮に向かいやすくなります。
しかし人件費・賃料・物価・金利が上昇を続ける時代に、公的価格を自ら値上げできない保険医療機関が、生産性の向上だけで未来を切り拓くのは困難です。トライアル型経営の時代が終わり、リピート型経営の時代を迎えた今、必要不可欠なのは顧客維持活動=購買品数・価格・来店頻度・患者紹介への働きかけです。そして、その核となるのがホスピタリティの向上なのです。
なぜ両立が「無理」だと思われてしまうのか
生産性向上とホスピタリティ強化は、一見相反する対策に見えます。効率化を進めようとしている治療枠の中に、丁寧なカウンセリングを持ち込もうとすると、ダブルバインド(二重拘束)が発生します。効率も落ちる、カウンセリングも中途半端になる。どちらの成果も出せない状態です。
この矛盾に直面した院長の多くが「ホスピタリティは諦めて効率を優先しよう」という結論に至ります。しかしこの結論は、両立できないのではなく、両立させる「設計」をしてこなかった結果です。
答えは「レーンを分ける」こと
効率化を進めるレーンと、ホスピタリティを強化するレーンを分けることが、この矛盾を解く鍵です。治療枠の効率化とは別に、カウンセリングルームとカウンセリング枠を独立して設け、そこで患者体験を演出する。こうすることで、患者体験の強化が治療枠の効率化を邪魔しなくなります。
このレーン分けを実現するには、「場所」「枠」「担当」の三つを確保できるかが問われます。専用の空間、専用の時間枠、そしてその役割を担う専任の人材。この三つが揃って初めて、両立が可能になります。また、医院ステージや規模によっては「保険治療」と「自費治療」のレーンを分けることも有効です。
なぜ多くの医院で「分業化」が進まないのか
レーンを分けるという発想自体は理解できても、実行に移せない医院が多いのが現実です。原因は、任せられる人材を採用し育成するという「分業化ステップ」を踏んでこなかったことにあります。
ホスピタリティは直接お金を生むわけではありません。だからこそ、経営が厳しくなると効率化重視に引き戻されやすい。またカウンセリングを別枠で始めても、担当者が育っていない最初の段階では「紙芝居」のような形式的な説明にとどまりがちです。時間をかけて人材を育て、患者体験が向上することによって患者単価が向上しリピート性が高まるという成果につながるまでには時間がかかります。経営に余裕がない医院、ユニット3台から拡張できない医院にとって、この分業化は簡単ではありません。
だからこそ、経営資源に余裕が生まれた段階で、意図的にレーンを分ける決断をすることが重要になります。次回は、ホスピタリティを「接遇マナー」だけで終わらせない三層構造について論じます。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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