前回は、採用で選ばれなくなるリスクを論じました。応募者が重視する条件の中心にあるのが、賃金です。そして、賃金は一度上げれば終わりではなく、継続して上げていくことが求められます。
令和8年度の歯科診療報酬改定でも、賃上げを支えるための評価が見直されました。しかし、ベースアップ評価料を算定されていない院長の多くは、賃上げの原資をどう生み出せばよいのか分からないまま、手が打てずにいるように感じます。今回は、その考え方を論じます。
ベースアップ評価料の算定は、なぜ進まないの?
私の見ている範囲では、大阪でのベースアップ評価料の算定は、50%程度にとどまっています。算定が進まない理由は、おおよそ次のことが想像できます。
・もともと、継続的な賃上げを続けられるだけの経営の体力がない
・継続的な賃上げをしないと採用ができなくなり、徐々に医院の収益が減っていくという認識がない
・制度がよく分からず、申請と報告も面倒なので、放置している
・仲良くしている院長も、算定していない
賃上げの費用は、国が全額を賄ってくれるの?
ベースアップ評価料は、届出をしたうえで算定し、その収入を基本給などの引き上げに充てる必要があります。算定後には、実績の報告も求められます。物価対応料も新設されましたが、賃上げですべてのメンバー、すべての費用を、国が賄ってくれるわけではありません。
ですから、賃上げをすると決めた医院は、自院の経営の状態と未来を、環境の分析と数値で見直す必要があります。そして、収益を増やしていく戦略を立てることが、不可欠になります。
経費を削れば、原資は生まれる?
単純に書けば、売上から経費を引いたものが利益です。収益性を高めるためには、収益につながらない設備投資があれば一時的に見直す必要性も出てきますし、医院の経費の管理も欠かせません(本当はもっと複雑)。スタートは院長が医院でのお金の使い方を見直すことが、出発点になります。
ただし、経費だけを抑えれば解決するわけではありません。売上を生むための経費まで抑えてしまうと、先の売上を確保できなくなる可能性があります。また、経費を使って売上を増やす場合にも、戦略がなければ結果は出せません。大切なのは「収益性が高い治療コンテンツの売上に占める割合を増やしていくこと」。売上は高いが売れる頻度が低く、設備費やスタッフの体制が必要なものよりも、リピート型でLTVが高い治療コンテンツにシフトしていくことなのです。
収益を増やす戦略は、何を見て立てるの?
現在の経営環境と未来の予測、経営資源、医院の規模、国の医療政策、院長の年齢などを考えあわせながら、収益を増やす方法を考えなければ、成果は出せません。
医院の現状と未来を分析した結果によっては、「賃上げはあきらめて、できることを頑張る」という医院も出てくると思います。また、院長が65歳以上でリタイア後資金が貯まり、承継を考えない、いわゆる「逃げ切り世代」であれば、無理をする必要はないかもしれません。
国は、歯科医院に何を求めているの?
国の医療政策を40年以上見てきて私が感じているのは、国は、中小企業が圧倒的な数を占める日本の現状を、変えようとしています(世界的企業を増やす方向性)。補助金などの支給の条件が変わってきているのも、その流れだと私は見ています。病院に対しては、新しい地域医療構想のガイドラインで、連携・再編・集約化を促す方向が示されました。
これは、歯科医院でも同じです。私は、国の本音は「継続的な賃上げができない歯科医院は、淘汰されても仕方がない」ということだと私は受け止めています。現時点の予測ですが、国は、産業構造の再構築、安定的な物価の上昇、継続的な賃上げ、DX化、を進める方向にある。つまり国にとって賃上げは「欠かせぬパーツ」なのです。そういう意味で国民も企業も「自助の時代」を迎えていると感じています。
先生の医院は、賃上げを続けていくための原資を、数値で説明できますか。どうやって原資を増やし続けるのでしょうか?(個別経営相談はこちら)
次回は、保険で守られる範囲が狭まるなかでの、収益構造のリスクを論じます。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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