「大規模医院の真似」が中規模医院を苦しめる
中規模歯科医院で収益が頭打ちになったとき、あるいは強い競合が増えたとき、院長は「次の一手」を探し始めます。そのとき最も陥りやすい間違いが、大規模歯科医院がやっていることを中規模医院が真似することです。
インプラントのデジタルガイドを導入する、歯周病の最新治療機器を入れる・・・。いずれも治療品質を高める方向性として間違いではありません。しかし問題は「その投資を回収できる収益基盤が、自院に整っているか」です。
大規模歯科医院は治療コンテンツごとにブランド化が進んでいます。最新機器の導入がブランド力をさらに高め、自費価格の値上げや患者単価の向上につながります。しかし中規模医院では各治療のブランド化が弱く、院長の治療における実績という裏付けも十分でないことが多い。そしてチームメンバーの成長度も大規模歯科医院ほどには達していないことが多いのです。だからその状態で同じ投資をしても、コストを回収できない可能性が高いのです。
ここからのステージでは「投資期」と「回収期」を機能させることが必要です。「回収期」が機能しなければ次の投資もおぼつかなくなる。だから「何に投資するべきか?」を間違ってはならないのです。
「やること自体は正しい」のに、なぜ失敗するのか
中規模医院の間違った対策に共通しているのは、投資する行為自体は正しいが、自院の経営資源が足りずに収益に結びつける力が弱いという点です。
たとえば最新の歯周病治療機器を導入して治療品質は上がったとします。しかし保険診療の範囲でその機器を使う限り、収益は増えません。インプラントの価格を値上げしても、患者がその価値を感じるだけのブランド力が医院になければ、患者は他院を選びます。投資が先行し、収益化の裏付けが後回しになる。このコスト先行パターンが、中規模医院の経営の体力を静かに消耗させます。
前回述べたように、どれもが中途半端になりやすいのが中規模医院の構造的な問題です。強い柱が確立できないまま経営資源を分散させると、すべての治療コンテンツが「そこそこ」の水準にとどまり、患者に選ばれる決定的な理由が生まれません。
サンクコスト効果—自分では失敗に気づけない理由
では、間違った対策を打ち続けている院長はなぜ気づけないのでしょうか。そこにはサンクコスト効果(埋没費用の罠)が働いています。すでに投資したコストへの執着が、「やめる」という判断を難しくするのです。
「ここまでお金をかけたのだから、もう少し続ければ回収できるはず」。この感覚が、間違った投資を継続させます。現場を見ていると、院長自ら投資の失敗に気づくケースは少ないのです。
正しい問いは「何をやめるか」
中規模医院の院長が次の一手を考えるとき、「何を新たに始めるか」より「何をやめるか」を先に問うことが重要です。
現在取り組んでいる治療コンテンツのうち、収益の柱として機能しているものはどれか。投資に対して収益が見合っていないものはどれか。経営資源を集中させれば本当の強みになり得るものはどれか。この三つを棚卸しすることが、間違った対策から抜け出す出発点になります。
中規模歯科医院に留まるなら大規模歯科医院の真似をする前に、自院の収益力とブランド力の現在地を確認し、何をやめて何を強化するのかを明確にして頂ければと思います。
次回は、中規模歯科医院が持つ三つの選択肢<規模拡大・ブランド強化・縮小強化>をどう判断するかを論じます。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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