院長の自費が柱の医院が抱える、構造的なリスク
売上1億円の医院の中には、ユニット3台でも歯科衛生士が専用枠(月に200人程度)をもち売上をあげている場合と、院長個人の保険と自費の売上が収益の大部分を占めているケースがあります。この場合、前者は拡張の準備がある程度できていますが後者は準備が出来ていない。
なぜなら、歯科衛生士が医院の収益基盤として機能していないからです。歯科衛生士が専用ユニットで患者を継続管理する体制が整っていない医院では、ユニットを増設しても新しい枠を回す人材が育っていません(院長は手一杯)。枠だけ増えて、担う存在がいないという状態になります。
拡張前に確認すべき「五つの問い」
ユニット増設を検討する前に、現在の歯科衛生士の育成環境を確認してください。
(1)育成カリキュラムとマニュアルが整備されているか。新人歯科衛生士が入職したとき、誰が何をどう教えるかが決まっていますか。これらが整備されていない医院では、採用しても育てられません。
実はこの時に院長は今いる歯科衛生士に入職する歯科衛生士の指導を丸投げしがちなのです。しかし、ここで育成制度の基礎を作り始めなければ院長は先々で後悔することになります。
(2)今いる歯科衛生士がやりがいを持って働いているか。やりがいを感じている歯科衛生士がいる医院は、口コミで応募が来ます。逆に退職が多い医院は、歯科衛生士のネットワークで「あの医院は・・・」という評判が広がり、応募が減っていきます。
(3)労働環境が整備されているか。休暇の取りやすさ、産休・育休への対応、勤務時間の柔軟性・・・。長く働き続けてもらうための環境が整っていない医院では、採用しても定着しません。もちろん、ユニット3台から増設を始めた段階でライフイベントへの柔軟な対応への難易度が高いのは分かります。しかし、諦めずに環境を整備し続けることが大切なのです。
(4)歯科衛生士が「医院の大切なパートナー」として位置づけられているか。院長の自費が収益の柱である医院では、歯科衛生士の役割が補助的になりやすい。歯科衛生士が治療品質を高める主体として関わる設計になっているかどうかが、採用力と定着率の土台になります。歯科衛生士はドクターの補助的存在では決してないのです。
(5)歯科衛生士枠の施術や管理の品質と生産性が両立できているか。「うちの歯科衛生士は担当制で・・・」という院長の言葉を私は信用しません。「担当制=質が高い」は過去の経験から幻想だと分かっているからです。歯科衛生士枠が担当制なのに患者がどんどん離脱している医院は多い。だからこそ数値で歯科衛生士の施術と指導管理の品質を判定する仕組みが必要なのです。
拡張しながら育成環境を整える覚悟
まず、上記の五つを段階的に構築することが必要だと院長が理解できているかが問われます。そして、組織の成長ステージに合わせて(1)~(5)の仕組みを作り上げるのです。その為の準備をしないでユニットを増設し始めることは、複数の穴の空いたバケツを大きくするようなものです。枠は増えても、回す人材が育たず人材確保もできない。
しかし現実には、完全に整ってから拡張するという順序は難しい。拡張しながら同時に育成環境を構築していく。この二つを並行して進める覚悟が、次のステージを目指す院長に求められます。どちらかが先ではなく、両方を同時に動かすことが必要です。
ユニットの増設は単なる売上アップの手段ではありません。医院を信頼して来院していただける患者を任せられる歯科衛生士(存在)を育て上げること。だからこそ、院長に覚悟が求められるのです。
院長が今週確認すべき一手
現在の歯科衛生士の離職率と平均在籍年数を確認してください。この数値が、育成環境と定着環境の現状を正直に示しています。離職率が高いまま採用を続けることは、採用コストを垂れ流すだけです。拡張の前に、まずこの数値を改善する一手を打つことが、次のステージへの確実な準備になります。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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