まず、一つの事実を確認させてください。
患者は、担当してくれる医療従事者を選べません。
趣味の商品であれば、気に入らなければ別のものを選べます。しかし医療は違います。
担当になった歯科衛生士が卒後6カ月目であっても、研修期間終了後のドクターであっても、患者はその医療従事者の治療を受けるしかない場面が多々あります。
これは歯科に限らず、医療というものが持つ構造的な現実です。
だからこそ、医療従事者には「今の自分では足りない」という自覚と、継続的に技術・知識・心理スキルを磨き続ける姿勢が求められます。
これは義務ではなく、患者を担当するすべての医療従事者が持つべき、職業人としての倫理だと私は考えています。
医療は「臨床を通して育つ」という構造の上に成り立っている
医療の知識は、国家試験の合格で一定の水準が担保されます。しかし技術は違います。
臨床を重ねることでしか身につかない領域が、医療には広く存在します。
歯科衛生士であれば、治療技術はもちろん、患者への医療面接の技術、行動変容を促す心理スキル、地域の多職種と連携するためのソーシャルワーク的な知見。
これらはすべて、臨床の場で積み重ねていくものです。
ドクターも同様です。研修期間を終えた直後の院長が、開業から10年の院長と同じ臨床判断ができるわけではありません。
つまり医療は本質的に、「今の自分ではまだ足りない」ことを知りながら、患者の前に立ち続けるという緊張を内包した仕事です。
その緊張を「医療の発展のために患者が負担している現実」として真摯に受け止め、だからこそ一日も早く成長しようとする意志を持てるかどうか。
そこが、医療従事者としての土台です。
私はスタッフに「皆さんが日々、歯科医療従事者として成長しなければ患者が迷惑を被ります」と話します。
先生の医院のスタッフは今、その緊張感を持って患者の前に立っていますか?
歯科医療の役割は、静かに、しかし確実に大きくなっている
昔、歯科は「直接、死に関わる医療ではない」と言われました。しかし今、その前提は変わりつつあります。
歯の欠損、歯周病、口腔機能の低下はオーラルフレイルへとつながり、低栄養・誤嚥性肺炎・生活習慣病の悪化を引き起こします。
国はこの関係性を重視し、令和の診療報酬改定においても口腔機能管理・医科歯科連携・在宅歯科医療の評価を継続的に強化しています。
歯科医療が「健康寿命の延伸」に直結する医療として位置づけられ始めているのです。
この変化は、歯科医院にとって何を意味するのでしょうか。
それは、歯科医院が提供する医療の質が、患者一人の健康だけでなく、地域全体の医療・介護の質にまで影響を持つ時代に入ったということです。
歯科医院は今、かつてとは比較にならないほど大きな社会的責任を担っています。
その責任の重さを、院長自身が腹の底から理解しているかどうか。そしてスタッフに伝えられているかどうか。それが問われています。
スタッフに成長を求めるなら、院長が一番成長していなければならない
ここで、私が最も伝えたいことを言います。
スタッフの成長を支えられない院長では、これからの歯科医院経営を発展させることは出来ません.
お金儲けなら出来ますが、歯科医療としてのステージは低く、スタッフは生活の為に働く、誰も院長を尊敬していない医院になります。
これは厳しい言い方ですが、私は確信を持ってそう思っています。
技術の進化、制度の変化、患者ニーズの多様化が加速する中で、成長し続けるスタッフを抱える医院と、現状維持に留まる医院の差は、今後ますます開いていきます。
スタッフが育たなければ、患者に提供する医療の質は上がらない。
医療の質が上がらなければ、患者は定着しない。
患者が定着しなければ、リピート型収益の基盤は生まれない。
この連鎖は避けられません。
そして、スタッフに成長を求めるのであれば、院長が一番成長していなければスタッフはついてきません。
これは組織の原則です。院長が学びを止め、現状に安住している医院では、スタッフも同じように止まっていきます(または飛び立っていく)。
逆に、院長が常に学び、自分の限界に挑戦し続けている医院では、スタッフもその姿勢に引っ張られていきます。
先生自身は今、学び続けていますか。先月、先週、昨日・・・何かを吸収しようとしていましたか。
院長の姿勢が、チーム全体の文化をつくる
先日、クライアント医院のキックオフミーティングで、MBTI(性格類型論)のワークで各自のタイプを確認し合う場面がありました。
スタッフの反応はとても活発で、お互いの結果を見て「なるほど」「そうだったのか」という声が上がりました。
こうした自己理解・他者理解のツールは、チーミング(チームとして機能するための継続的な取り組み)の入口になります。
自分の強みと弱みを知り、チームの中で自分がどう貢献できるかを考える。
その積み重ねが、心理的安全性の高い職場(誰もが失敗を恐れず、意見を言い、学び続けられる環境)をつくっていきます。
しかしこうした取り組みも、院長が本気で関わらなければ一過性のイベントに終わります。
セミナーをやって満足、ではありません。
そこで得た気づきを日常の診療の中に落とし込み、スタッフが実際に成長できる機会と環境を設計し続けること、それが院長の役割です。
今後、クライアント医院の院長や幹部と「誰も失敗を恐れず」「自分の考えを言え」「個人とチームが学び続ける」チームを作っていくのが楽しみです。
まとめ
患者は担当者を選べません。だからこそ、医療従事者は常に学び続けなければなりません。
そして、その文化は、院長が率先して学び続けるところからしか生まれません。
スタッフの成長を支える院長は、スタッフから信頼されます。患者から信頼されます。地域の多職種から信頼されます。
そして経営的にも、その積み重ねが医院の土台になっていきます。
スタッフの成長を本気で支え、真摯に歯科医療と向き合い続ける院長。
そういう院長のいる医院だけが、これからの時代に選ばれ続けると私は確信しています。
先生の医院の発展をこれからを、心から応援しています。

















