準備の差がスタートダッシュの差になる
令和8年3月5日、診療報酬改定の内容が官報で告示されました。その後4月にかけて疑義解釈が公表され、各地で改定説明会が開催され、ゴールデンウィーク明けに施設基準の届出を済ませた医院も多かったと思います。
そして6月1日、新たな診療報酬体系での診療がスタートします。
ここで一つ、率直に問いかけさせてください。
先生の医院は今回の改定で、何項目を新たに算定(変更分含む)できる準備が整っていますか。口腔機能実地指導料、重症化予防連携強化加算、電子的診療情報連携体制整備加算(医療DX加算からの変更)、在宅歯科栄養サポートチーム等連携指導料、医科連携訪問加算、口腔粘膜湿潤度検査、チタンブリッジ、顕画像・・・等々、これらを6月1日から実際に算定できる状態にありますか。新たなオペレーションはスタッフに落とし込まれ、機能する見込みがありますか。
算定の準備ができている院長は、6月からの一年間で患者単価の上昇、そして売上への貢献が見込めます。準備が間に合わなかった院長は、算定できたはずの点数を取り損ねたまま一年が過ぎていきます。この出遅れは、経営に直接マイナスの影響を及ぼします。
改定を「数回重ねる」と、差は取り返しのつかない水準になる
一回の改定での準備の差は、金額にすれば「もう少し取れていたかもしれない」という水準かもしれません。しかし改定は二年に一度、繰り返されます。
毎回の改定で準備をして算定項目を増やしてきた医院と、その都度出遅れてきた医院では、改定を三回・四回重ねると算定できる総点数に大きな差が生まれます。準備している医院は診療報酬の変化を「収益アップの機会」として活用し続けます。出遅れている医院は、変化のたびに対応に追われながら、本来算定できたはずの収益を取り損ね続けます。
さらに深刻なのは、こうした差が「算定できる項目の差」だけでなく「医院の診療水準の差」にもつながることです。口腔機能管理や歯科医科連携に取り組んできた医院は、その過程でスタッフのスキルが上がり、患者との関係が深まり、地域での信頼が積み上がります。点数の差は、やがて医院の組織力と地域での存在感の差になっていきます。
診療報酬改定対応は、最重要の経営対策である
保険医療機関である限り、診療報酬改定への対応は任意ではありません。改定の内容を理解し、算定要件を満たし、オペレーションに落とし込み、収益に結びつけること。これは経営者としての最重要業務のひとつです。
にもかかわらず、多くの院長が改定への対応を「事務的な作業」として処理しています。点数が変わったから確認する、施設基準が変わったから届出を出す。よくわからない算定項目には手を付けない。この水準の対応では、改定を経営に活かすことはできません。
改定を経営戦略として捉えるとは、こういうことです。今回の改定でどの項目を新たに算定できるかを分析し、それを一年間でどのくらいの収益に換算できるかを試算する。そのためにどのオペレーションを変える必要があるかを特定し、スタッフに何を教育する必要があるかを設計する。そして次回・次々回の改定の方向性を予測しながら、今から医院を変化させていく。この思考プロセスが、改定を経営力アップ(=診療品質アップ)として使うことの意味です。
今からでも始められる「三つの確認」
6月1日まで残り時間は限られています。最小限の改定対応でとどめている場合には、すべてを今から整えることは難しいかもしれません。しかし、今からでも確認できることがあります。
一つ目は「ベースアップ評価料の算定状況の確認」です。もし未算定であれば、今すぐ顧問税理士と相談し、算定に向けた手続きを始めてください。第3回でお伝えした通り、算定していない医院が受けるリスクは時間とともに大きくなります。
二つ目は「口腔機能実地指導料の算定要件の確認」です。研修を受講した歯科衛生士が在籍しているか。患者への文書提供の仕組みが整っているか。施設基準の届出が済んでいるか。これらを確認し、間に合う要件から順に整えていくことです。
三つ目は「重症化予防連携強化加算の対象患者の特定」です。糖尿病の患者で、医科で管理されている患者を自院の問診表やカルテから特定し、情報提供の様式と手順を決めることから始められます。最初から完璧なフローでなくても、動かしながら改善していくことが重要です。
これら三つをこの時点でどのくらい準備できているかを正直に確認することが、今の先生の医院の改定対応の現在地を知ることになります。
改定の行方を予測しながら、今から医院を変化させていく
このシリーズを通じてお伝えしてきたことを、最後に整理します。
令和8年改定は、令和10年・12年改定に向けた布石です。長期管理・連携管理・予防という三つの軸は、今後さらに強化されていきます。ベースアップ評価料の評価差は拡大し、口腔機能管理や医科歯科連携に取り組んでいる医院とそうでない医院の差は、制度として明確に刻まれていきます。
これからの歯科医院経営において、改定への対応は「来てから考える」では間に合わなくなっていきます。次の改定の方向性を今から読み、必要なオペレーション・スタッフのスキル・組織体制を事前に整えておくこと。これが経営戦略としての改定対応です。
変化を先読みして動いてきた医院が、次の改定でも有利な位置に立ちます。変化を後追いしてきた医院は、常に準備不足のまま改定を迎えることになります。この差は、積み重ねるほど大きくなります。
先生の医院は今後の改定をどう経営に活かしていくか、明確な方針を持っていますか。
このシリーズを締めくくるにあたって
第1回から第6回まで、「診療報酬改定を経営に活かす」という視点でお伝えしてきました。
なぜ院長は改定を経営に活かせないのか。令和8年改定が示す国の意図とは何か。ベースアップ評価料を算定していない医院に何が起きるか。口腔機能実地指導料が独立した意味は何か。医科歯科連携のキャッチボールの実態をどうつくるか。そして改定対応を経営戦略に落とし込むとはどういうことか。
これらは、診療報酬改定という制度を通じて、歯科医院経営の本質を問い直す問いでもあります。点数の変化に一喜一憂するのではなく、制度の方向性を読み、自院を変化させ続けることができる院長だけが、これからの時代に経営者として機能し続けられます。
変化の時代に、先生の医院が変化する側に立ち続けることを願っています。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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