物価上昇、金利の上昇、最低賃金の引き上げ・・・
歯科医院を取り巻く経営コストは、あらゆる項目で上昇が続いています。
かつての歯科医院経営は、今より恵まれた環境にありました。
う蝕患者が多く、歯冠修復及び欠損補綴の平均点数が高かった時代には、特別な経営管理をしなくても十分な利益を残すことができました。
院長が経費の管理に時間を割かなくても、診療をきちんとこなしていれば経営は成り立ったのです。
しかし平成から令和にかけて、その前提は静かに崩れてきました。
診療報酬の抑制、競合医院の増加、人件費の上昇等、今や一般企業が当たり前に行っている経営管理が、歯科医院にも求められる時代になっています。
先生の医院では、今年度の経費がどの項目にいくら使われているか、すぐに答えられますか?
売上を上げるだけでは足りない理由
コスト上昇への対策として、多くの院長がまず考えるのは売上の拡大です。
患者単価を上げる、自費診療を強化する、新患を増やす・・・、それ自体は正しい方向です。
しかし事業経営の基本は、売上と費用の両面を管理すること。
どれだけの限界利益を生み出せるか?どれだけ経常利益を残す必要があるか?が明確になって初めて、いくらまで経費をかけられるかが決まるのです。
そして、医院ごとにこの「利益を生み出す構造(収益構造)」が違い、同じ売上でも残る利益が違う。
だから、院長は自院の収益構造の改善に努めなければならないのです。
歯科医院で気づかないうちに膨らむ安い経費とは
販売管理費(人件費を除く経費全般)の中で、歯科医院特有の問題が起きやすい項目をいくつか挙げます。
広告宣伝費
費用対効果を測定していない医院が多い項目です。
ホームページのリニューアル、ポータルサイト広告、リスティング広告、看板費用、地域誌への掲載等、それぞれにいくら使い、何人の新患につながったかを把握していなければ、広告費が単なる支出になってしまいます。
前回の記事でも触れた「広告費倒れ」が起きやすいのはこのためです。
減価償却費
節税を目的に設備投資をしがちな項目です。
税金を下げる効果はありますが、実際の診療に使われない設備や、稼働率の低い機器への投資は、長期的に見ると経営の重荷になります。
キャッシュフローにプラスの影響を及ぼさない設備投資を続けると、収益構造がどんどん悪くなります。
設備投資は「それが売上にどう貢献するか」を先に問い、投資額を回収できる利益を得られたかまでを見るべきです。
接待交際費
「経費になる」という意識から使い過ぎになりやすい項目です。
事業の発展に直結しない院長個人の飲食なども含まれていることがあります。
年度末に合計を見て「こんなに使っていたのか」と驚く院長は少なくありません。
研修・セミナー費
治療技術を高めることは医院の競争力に直結するため、必要な投資です。
しかし、参加したセミナーで学んだ技術が実際の臨床に活かされ、それが患者単価の向上や患者満足につながっているかを確認している院長は多くありません。
学びが売上に転換されて初めて、この経費は投資になります。
消耗品費
最も気づかず膨らみやすい項目です。
一つひとつは小さな金額であるため支出の基準が曖昧になりやすく、院長の了承があれば発注できるという運用になっていることが多い。
誰も管理しないまま事業年度が終わると、合計すれば相当な金額になっていたというケースが現場でよく見られます。
院長自身が管理しようとしてもうまくいかない理由
経費は抑制することが正解ではありません。
無駄を減らし必要な時に大胆に使うことが大切なのです。
「それなら自分で経費を管理すればいい」と思われるかもしれません。
しかし現実には、院長が自ら細かい経費管理を続けることは難しい。
お金の使い方を厳しく管理しようとしても、どこかでルールが緩み、気がつけば元の状態に戻っているというパターンが繰り返されます。
管理が続かないのは意志の問題ではなく、仕組みの問題です。院長は診療・組織運営・経営判断と、すでに多くの役割を担っています。
そこに細かい経費管理まで加えることは、現実的ではありません。
だからこそ、外部の力を使うことが有効です。
顧問税理士を「報告者」から「管理パートナー」へ
私がお勧めするのは、顧問税理士に販売管理費の管理を組み込んでもらう方法です。具体的には以下の流れです。
まず、顧問税理士に依頼して、販売管理費を細かいカテゴリごとに分けて集計してもらいます。
「消耗品費」「広告宣伝費」「研修費」「接待交際費」「減価償却費」など、大括りではなく実態が見える粒度で整理することが重要です。
次に、院長と税理士が話し合い、各項目の適正な支出額を算出します。
前年実績をベースに「この項目は減らせる」「この項目は投資として維持する」という判断を加えて、次年度の販売管理費予算を作成します。
そして毎月、税理士事務所の担当者が訪問した際に、予算に対する消化状況を報告してもらう仕組みをつくります。
第三者から定期的に数字を示されることで、無駄な支出を抑制する効果が生まれます。院長一人で管理しようとするより、はるかに継続しやすい。
一般企業では当たり前に行われているこの仕組みを、歯科医院経営にも取り入れる時期が来ています。
私が開業医団体に勤務していた時代には総務部が販売管理費支出の番人でした。
経費実績が多ければ次年度の事業計画で経費に見合う売上を上げることが求められる。
当然、当時管理職であった私は「売上」と「経費」の両方の予算達成を求められたのです。
まとめ
コスト上昇時代に利益を守るための道筋は、売上を上げることと、支出を管理することの両輪です。特に販売管理費は、意識しなければ気づかないうちに膨らんでいきます。
次の事業年度を前に、まず顧問税理士に「販売管理費をカテゴリ別に集計してほしい」と依頼することから始めてみてください。
その数字を毎月見ることが、次年度の利益を守るための最初の一歩になります。
いまは生成AIを使えますので仕分けは昔ほど難しくはないはずです。
経費管理の仕組みづくりについて具体的に取り組みたい院長は、ぜひ一度ご相談いただければと思います。
![]() |
|
![]() |
|
![]() |

















