今回の補正予算案は、表面的には「医療への財政支援が拡大している」のように見えます。
しかし、医療政策を精査した結果、歯科医院にとっては大きなターニングポイントになる構造的変化が隠れていることが分かりました。
結論から言うと、「医療分野に関する補正予算は国の医療政策の前倒し予算」なのです。
病院や医療機関の支援と言いながら「ベット削減」が前提だったりするし賃上げがセットになっている。
つまり、令和8年の改定で実施することを補正予算で始めようとしているのです。
補正予算の方向性で特に次の3つは歯科医院に直結するポイントです。
① 補正予算の3割以上が「人材確保・賃上げ」へ
→ 歯科医院の固定費は確実に上昇する
今回の補正予算案では、医療・介護・障害福祉など“対人業務”の分野に手厚く予算が投じられています。
特に強いのは以下の流れです。
・介護・看護の賃上げ
・医療職全般の人材確保
・地域包括ケアの強化
これはつまり、
「人件費は今後も確実に上昇し続ける」ことを示すシグナルです。
歯科衛生士・診療スタッフの採用難はさらに激しくなり、賃上げに追いつけない医院は採用市場から脱落する可能性が高まります。
さらに問題なのは、
この“賃上げ政策”は診療報酬の基本報酬増額で補填されない。
という点です。
つまり、歯科医院は賃上げ分を“自力で捻出する”時代に入ったということ。
外来中心の医院で、
・患者単価が低い
・診療効率が悪い
・管理系点数が弱い
・それをカバーする自費収入が少ない
医院は、確実に収益が圧迫されます。
② 補正予算で最も注目すべきは「地域包括ケア」と「重症化予防」への巨額投資
→ 歯科医院には“管理・連携”が必須スキルになる
補正予算案では、次の領域が明確に強化されました。
・在宅医療
・フレイル・口腔機能低下対策
・多職種連携
・生活習慣病の重症化予防
・高齢者の健康支援
・医科歯科連携を含む地域包括ケアの拡大
これが意味するのはただ一つ。
歯科医院は「治療中心」から本格的に“管理・予防・連携型”へ移行させられる。
これは令和8年診療報酬改定でも明確に示されています。
特に補正予算を見ると、
・口腔ケアの標準化
・施設系での口腔機能管理
・在宅歯科医療への支援
・医科との情報連携
など、“歯科の役割が拡大する予算項目”が並んでいます。
つまり、
口腔管理体制強化加算(口管強)を取得していない医院は今後、政策の流れから外れていく可能性が極めて高い。
政策は予算と連動します。
■予算が付く分野=保険医療機関として伸びる分野
■予算が削られる分野=保険医療機関として淘汰される分野
これが国の構造的な動きです。
③ デジタル化(医療DX)が補正予算でさらに加速
→ “デジタル弱者”の歯科医院は改定で不利になる
今回の補正では、
・電子カルテ標準化
・医科歯科、訪問分野でのの情報連携
・オンライン資格確認の高度化
・医療情報のデータ基盤整備
・在宅医療DX化支援
など、DX推進に多額の予算が組まれています。
これは何を意味するか?というと、
今後の診療報酬は「デジタル前提」で再設計される。
例えば、
・デジタル印象
・CAD/CAM
・データ連携
・画像診断のデジタル化
・管理系点数の電子情報活用
これらの“デジタル対応の有無”が医院の収益を左右する時代になります。
つまり、
デジタルに投資できなければこれからの歯科医院は競争力を維持できない。
デジタル投資が困難である小規模医院には特に厳しい構造です。
歯科医院は何をすべきなのか?今日から取り組むべき3つの視点
補正予算案を読むと、次の3つが「生き残る医院」が確実に進めている対策だと分かります。
① 医療政策と診療報酬を“流れ”で読む習慣を持つ
点数の増減だけを見るのでは不十分です。
・なぜその予算が付いたのか
・国が何を実現したいのか
・次の改定でどう動くのか
政策の因果関係を理解する院長ほど、先手で動けます。
② 自院が“政策で伸びる分野”に資源を集中投下する
すべてをやる必要はありません。
例えば:
・ライフステージに応じた口腔管理と指導
・新たな歯周病管理の仕組み
・高齢者歯科
・障害者歯科
・訪問歯科
・多職種連携
・生活習慣病連携管理
・デジタル治療
医院ごとに「勝てる分野」があります。
そこに集中することが、最も効率が良く、最も早く成果が出ます。
また、院長の年齢と事業承継の有無によっては「デジタル分野を捨てる」という選択も可能だと考えます。
③ 経営体質を“投資回収できる構造”に変える
補正予算は、はっきりとこう伝えています。
『今後、医療機関の経営は“自助努力”の要素が大きくなる』
だからこそ、
・患者単価の向上
・DH生産性の最大化
・管理系点数の最適化
・自費の柱の育成
・経費の投資対効果の管理
ここを固める医院が強くなります。
まとめ:補正予算案は「“羊(支援)”の皮を被った悪魔」
その意味を理解した院長から未来が拓ける
補正予算案は表面的には医療を支援しているように見えます。
しかし、その内側には次の明確なメッセージがあります。
これからの医療は、
・治療だけでなく管理・連携・デジタル化を担える医院だけが支援される。
・地域包括ケア(訪問だけではない)に参加しない医院は評価しない
・アウトカム評価が段階的に導入される
海外によっては医院ごとに「通信簿」がある国があります(報酬も違う)。それが将来日本に導入されるかは分かりませんが、プロセスによる評価から結果による評価に移行していく流れは日本でも強まるのです。
令和8年改定以降、医院格差はますます広がります。
このタイミングで院長がどう動くかが、先生の医院の10年後を決めるのです。
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