なぜ「数値で見る経営」が必要なのか?
令和8年以降の診療報酬改定で国が掲げる方針として「医療機関の収益構造の透明化(実態把握)」があります。分野ごとに収益実態を把握し“過剰利潤”というレッテルを貼られると、制度的な報酬引き下げの対象になる可能性があるのです。薬価改定はその代表例であり介護の分野でもすでに実施されている。今後は医療もアウトカム評価が進み、「費用対効果が低いもの」「過剰利益と判断されたもの」は引き下げの対象になっていくのです。現段階では、「赤字の割合が高い病院は診療報酬で少し手当され、無床診療所が狙われるかも」という印象をもっています。これから年末の改定率決定に向けた攻防戦が続きますので、このブログでも各段階に応じてご紹介していきますね。先ずは参議院選挙の結果とその後の動きを見ていきたいと思います。
なので上記の状況を踏まえると、数値をもとに自院の経営状態を的確に把握し、根拠のある対策を講じることは、これからの時代において「医院を守る」ための必須スキルとなってきているのです。
先生の医院では、「赤字にならない為に1日に必要な売上高」「当日キャンセル1件の損失額」「1チェアあたりの収益性」などを具体的な数値で把握されていますか?
「感覚」で経営していると、知らぬ間に赤字月が積み重なっていたということも珍しくありません。
では、数値管理の初歩の初歩について書いていきます。
大きな歯科医院では行動トラッキングや生産性の管理が当たり前におこなわれていますが、中規模になると数値は管理していても経営改善に活かせていないことが多く、小規模になると数値管理の方法自体が間違っている。大きな歯科医院の場合には数値管理のプロと契約されている事が多いので以下に書く内容はもの足りないと思いますがご容赦ください。
損益分岐点を明確にすることの重要性
歯科医院の経営において最も基本的な数値管理が、「損益分岐点(本当は経営収支分岐点ですが・・・)」の把握です。これは、月間の固定費(家賃・人件費・リース・水道光熱費など)と変動費(材料費・技工料など)をもとに計算され、「どれだけの売上を出せば黒字になるのか」を明確にする指標です。
たとえば、ある歯科医院の月間の固定費が500万円、変動費率が20%であれば、損益分岐点売上は約625万円となります。つまり、この金額を下回った月は赤字です。祝日や休みが多い5月、8月、年末年始や、台風などでキャンセルが相次ぐ月には注意が必要です。
稼働日1日の固定費が約20〜25万円かかっている計算になるこのケースでは、1日当たりこの金額を上回る利益を出さないと「その日は赤字」です。
当日キャンセルが発生した場合、治療時間分診療チェアが1台空いてしまうことになりますが、これは単なる「空き時間」ではなく、赤字を招く「損失時間」。
当日キャンセル枠を埋める為のアイデアも必要不可欠だと言えます。
チェア単位の収益管理を導入する
損益分岐点分析に加え、もう一つの重要な指標が「ユニット別収益性」です。医院全体の売上だけでなく、各ユニットがどれだけの収益を生んでいるかを把握することで、生産性の偏りや改善ポイントが明確になります。
たとえば、ユニット1は歯科衛生士による定期管理中心、ユニット2は自費補綴やインプラントなど高単価治療が多いのベテランドクター中心、ユニット3は小児や保険治療中心の若手ドクター中心で運用がされているとしましょう。それぞれのユニットの月間売上と使用時間を比較すると、単位時間あたりの生産性(1時間あたり売上)に大きな差がでてきます。
この結果をスタッフや勤務ドクターとも共有することで、「この予約枠の空き時間をどう埋めるか」「滞在時間をどう効率化するか」といった議論が可能になります。つまり、「どこに手を打てば治療品質を下げずに利益が上がるか」が明確になるのです。
経営環境の変化に備えるための「数値対話」
歯科界を取り巻く経営環境は確実に厳しくなってきています。今後の診療報酬改定では、「包括評価」や「パッケージ化」などが進み、1件あたりの報酬単価が下がる可能性もあるのです。
こうした変化の中で大切になるのが、「数値をもとにしたチームでの対話」です。
「今月はユニット2の生産性が下がったが、どう対応するか?」
「歯科衛生士の一人あたり管理患者数が減っている理由は何か?」
「行動計測データによると〇〇チームの〇〇の数値が他のチームと比べて増えていない。何は理由か?」
このような問いを数値と共に投げかけることで、感情論ではなく、事実に基づいた建設的な議論が可能になります。
スタッフとの信頼関係を土台に、数字で現実を直視し、改善に向かうという経営文化が、今後の医院成長の鍵を握っているのです。
最初に取り組むべき実践ステップとは?
数値管理が苦手である院長はまずは次の3つのステップから始めてみてください。
1.1ヶ月の固定費と変動費を整理し、顧問税理士と損益分岐点を試算する
2.各チェアの診療内容と売上・稼働可能時間と稼働時間を集計する
3.1日の利益目標を設定し、キャンセルや空き時間が与える影響を数値で可視化する
4.朝礼と終礼前にユニットリーダーに前日と当日の数値を伝え、リーダーから改善指示を出してもらう
重要なのは、「見える化して行動に繋げること」です。
先生の医院では、数値をもとにした経営判断やスタッフとの対話はできていますか?
この機会に、経営の“地図”とも言える数値を整えることで、未来への準備を一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
保険診療の収益が増えず経営コストが増えている時代、院長がそのリスクに対処できる明確な戦略を持っていなければジリ貧になっていく。
その事に数値管理ができている院長は気づいており、数値管理が出来ていない院長は気づいていないのです。
「先生の医院では、損益分岐点と1チェアあたりの収益性を把握したうえで、日々の診療計画を立てていますか?」
もっと詳しく知りたい方、医院に合った分析シート作成や数値管理の仕組みの導入支援のご相談も承っています。お気軽にお問い合わせください。