近年、組織づくりや教育制度の整備に取り組む歯科医院が増えてきました。しかし一方で、「評価制度を導入したのにうまく機能しない」「新人教育後の育成が止まってしまう」といった悩みを聞くことも多くあります。
その背景には、「今の医院・チームのレベルに合っていない仕組みを入れてしまっている」という本質的な問題があります。例えば、院長が他院で成功している制度を参考にして自院に導入したものの、まだ土台が整っておらず、チームが混乱してしまう──こうした事例は珍しくありません。
私はこの問題に向き合うために、日本の「義務教育制度」を参考にした育成の考え方を提案しています(日本の教育もアクティブラーニングに移行していっています)。
つまり、小学1年生から中学3年生まで、着実に階段を登っていくように、歯科医院のチームにも“段階的に積み重ねる仕組み”が必要。
そして伸びていくスタッフに合わせて「飛び級」も必要だと思うのです。
基礎的な育成の仕組みは確保しながらもスタッフが興味を持つポイントを探り、将来に担ってもらう役割を見つけたら本人と共有し、専門分野のスキルが向上していく様に関わるのです。
歯科医院には「小5と中3が混在する」現実がある
義務教育との決定的な違いは、歯科医院のチームには成長段階の異なるメンバーが混在しているという点です。中学3年生レベルのスキルや意識を持ったベテランスタッフ(義務教育の最上位)がいれば、小学5年生のような若手スタッフもいる。つまり、全体に一律の研修を行っても、すべてのメンバーの成長を促せるとは限らないのです。
特に問題となるのが、新人研修を終えたあとのスキルアップの仕組みです。多くの医院では、新人教育は手厚く準備されていても、その後は全体研修に吸収されてしまい、個別に成長支援を受けられる仕組みが薄くなる傾向があります。
その結果、意欲的なスタッフは先輩に相談し、自発的に技術を磨いていきますが、大人しいスタッフや遠慮がちなスタッフは、日常業務をこなすことで精一杯になり、成長の機会を自ら取りにいくことができません。
先生の医院では、各メンバーが「背伸びすれば届く」役割を任されていますか?
「今のチームでできるレベル」を見極めて、段階的に仕組みを整える
どんな制度も、チームの成熟度に合っていなければ成果を出せません。たとえば、チームのほとんどが“小学3年生”レベルの組織に、義務教育を飛び越えいきなり“高校生”向けの目標管理制度や評価制度を導入しても、形骸化するだけです。むしろ、自信を失ったり、チーム内での温度差を広げてしまうリスクすらあります。
重要なのは、「小5には小5の」「中3には中3の」成長を促す仕組みを用意すること。たとえばプロジェクトを進める際には、チームリーダーが中心となって役割を任せ、それぞれのメンバーに“少し背伸びをすれば達成できる”チャレンジを与えるといった工夫が必要です。
これは心理学でいう「最近接発達領域(ZPD)」の考え方に近いものです。つまり、適切なサポートがあれば成長できる領域に対して働きかけることが、本人の成長を引き出すカギとなります。
最近では学習塾も「個別指導」が増え、本人の現在地から学力を積み上げていく。
つまり高校受験であっても現在地の学力が小学5年生なら小学5年生の教育からスタートして、受験レベルに引き上げていくのです。
「うさぎとかめ」の教訓──飛ばしたステップは、どこかで必ず壁になる
院長先生の中には、「うまくいっているあの医院の制度を取り入れれば、もっと早く成長できるのでは」と思い、思い切った制度改革を図る方もいます。しかし、チームの“土台”ができていないまま制度だけが先行すると、かえってスタッフが混乱し、仕組みが形だけのものになってしまう危険があります。
ここで思い出していただきたいのが、「うさぎとかめ」の童話です。うさぎのように、一気に駆け上がろうとしても、必要なステップを飛ばしてしまえば、途中でつまずきます。逆に、かめのように一歩一歩、確実に階段を登っていく医院は、着実に組織としての力を蓄えていくことができます。
組織の成長には「制度」だけでなく「関わり方」が必要
最後に大切なことをひとつ。制度や仕組みを整えることはもちろん重要ですが、それだけで成長が自動的に進むわけではありません。院長やリーダーが、日々のコミュニケーションやプロジェクトを通じて「どんな支援が必要か」「今、どんなステップが適切か」を見極め、関わり続けることが、仕組みを“生きたもの”にしていくのです。
先生の医院では、メンバー一人ひとりに合わせた育成の視点を持てていますか?
歯科医院のチームづくりは、義務教育のように段階的に成長できる環境を整えることで、スタッフ・患者さん・医院の三方よしを実現する土台になります。焦らず、でも確実に、「その人の今」に合わせた仕組みを選び、着実なチームの進化を目指していきましょう。