最初にすべきは「棚卸し」
前回、新たな挑戦に踏み出すための準備が70%整っていれば動き始めてよいと述べました。では、その70%をどう確認するか。最初のステップは、自院の経営資源と治療コンテンツの棚卸しです。
経営資源の棚卸しとは、ヒト・モノ・カネ・情報の現状を正確に把握することです。人材の質と量、設備の稼働状況、資金力、院長とスタッフが持つ知識とスキル。これらが今どの状態にあるかを確認します。感覚ではなく、その経営資源で出せた経営的成果(数値)を事実で把握することが重要です。例えば、「一人当たり生産性」などが客観的な評価指標です。
治療コンテンツの棚卸しでは、現在提供している診療メニューを収益性と患者への価値という二つの軸で評価します。ここで有効なのがABC商品分析です。収益性・収益額ともに高く患者にとっての価値も高いAランク、準主力商品であるBランク、数は多いが患者と収益への貢献度が低いCランク、患者と収益への貢献度が低く経営資源を消費させるDランク(ここでは四分類にしています)。この分類が、経営資源をどこに集中すべきかを教えてくれます。
「総構え」をしてはいけない院長がいる
棚卸しの結果を見たとき、院長は二つのタイプに分かれます。大型歯科医院と強者の戦略で戦える実力を身に着けられる院長と、まだその実力がない院長です(または身に着けられない院長)。
実力が十分でない段階で「総構え(多角化)」を始めると、経営資源が分散します。どの治療コンテンツも中途半端な水準にとどまり、強者にシェアを奪われやすくなります。これは前回述べた「品揃えは良いが柱がない」という危険な状態と同じです。
実力がまだ十分でない院長に必要なのは、多角化ではなく集中です。少なくとも一つ、強者と差別化をしながらシェアを奪っていけるエリアを持つことが、経営の踏み出し方の正解になります。そのエリアに経営資源を集中投下することで、初めて差別化が機能し始めます。力がついていない段階で強者と真正面から戦おうとしてはならないのです。
「戦える」と判断したら、集中して動く
棚卸しを経て「この分野なら戦える」という判断ができたら、次のステップは経営資源の集中投下です。中途半端な関与では成果が出ません。人材・資金・院長の関与時間。この三つをその分野に集中させることが、投資を収益に変える条件になります。そして、必ず経営的な成果を出す覚悟が院長に必要なのです。
集中投下の判断が難しいのは、他の分野への関与を減らすことを意味するからです。Dランクのコンテンツを維持するコストを思い切って削り、Aランクの強化に回す。この「やめる決断」が、集中投下を可能にします。
シリーズを振り返る—歯科医院の経営判断の基本
このシリーズでは、現状維持が最大のリスクになった時代に、院長が効果的な経営判断をする視点を論じてきました。
施設基準の取得率が示す経営格差の現実(第1回)、か強診2016年から学ぶ決断の差(第2回)、70%の準備で踏み出す上流思考の重要性(第3回)、そして棚卸しとABC分析による集中投下(第4回)。この四つが、経営判断を踏み出すための地図になります。
完璧な準備より、未来を切り拓く為のチャレンジを選ぶ。自院の強みを一つ見極め、そこに集中して動く。失敗を恐れず動き続けなければ何も得られません。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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