不安になるとメニューが増える—飲食店と歯科医院の共通点
経営に不安を感じた飲食店がまずやることがあります。メニューを増やすことです。「品数を増やせば色んな人のニーズに対応でき客数も増えるはず」という発想が、軸のないメニュー構成を生み出します。しかし実際には、コンセプトが不明確な店は誰の記憶にも残りません。
歯科医院の院長も、経営への不安が高まると同じ行動を取りやすくなります。治療コンテンツを増やす、全方位的なホームページを作る、ポータルサイトで広く新患を集めようとする。「誰でもいいから来てほしい」という状態になるほど、医院のポジションはぼやけていきます。例えば、健康観が高い患者に支持される医院を目指しながら、急患を欲しがる。この矛盾が、マーケティングの軸のブレとして現れます。
患者から見た「ピンボケ医院」
「誰に寄り添いたいか」が不明確な医院は、患者からピンボケで見えます。患者が医院を選ぶとき、頭の中に「この悩みにはこの医院」という候補リストができています。マーケティングではこれをエボークトセット(想起集合)と呼びます。ポジションが明確でない医院は、このリストに入ることができません。
一方、「あの医院はこういう患者を大切にしている」というイメージが地域に定着している医院は、そのイメージに共感する患者が自然に集まります。口コミも、そのポジションに合った患者からの紹介という形で広がります。ポジションの明確さが、集患の質と効率を決めます。
多くの院長はペルソナを決めていない
ペルソナとは、医院が最も深く関わりたい患者像を具体的に描いたものです。年齢・性別・職業・趣味・生活習慣・健康への意識・日常の行動パターン・歯科医院に求めていること。これらを組み合わせて、一人の具体的な人物像として描きます。
しかし多くの院長は、このペルソナを明確に描けていません。現在、どういう特性とニーズを持つ患者に自院が支持されているかにも、気づいていないことが多いのです。マーケティング脳が十分に鍛えられていないため、既存患者の中にどんなペルソナが多いかを分析する発想そのものが生まれにくい。
だからまず、すでに来院している患者の中から「この患者のような方がもっと増えれば」と思う人を3〜5人思い浮かべてください。その患者たちに共通する特性や抱えている悩みを深く知ることが、自院がペルソナに設定するべき人物像の輪郭を描きます。
ペルソナが決まると、すべてが変わる
ペルソナが明確になると、経営判断の軸ができます。ホームページのトップページに載せる言葉、SNSで発信するテーマ、院内ツールの内容、スタッフの患者への声かけの方向性、口コミツール。これらすべてが、ペルソナに向けて設計されるようになります。
ペルソナを絞ると患者が減ると怖がる院長がおられます。しかし実際には逆です。「誰でも来てください」という医院より「あなたのような患者を大切にしています」「〇〇で困っている人に支持されている医院です」と伝わる医院の方が、そのペルソナと同じニーズを持つ患者から強く選ばれる。大きなマーケットボリュームの中の特定のニーズに絞る(または現在のコンテンツに加える)ことで、特定の人に深く刺さる医院になるのです。
治療ブランドはペルソナへの一貫した関わりから生まれる
多くの院長の場合、治療ブランドは、意識的に作るものではありません。ペルソナの満足度を高める為に、一貫した治療品質と患者体験を積み重ねた結果として、地域に認知されるものです。
「○○をしている私たちにとって〇〇歯科医院は不安なく通えるので友人にも勧めている」「○○の治療の中でも〇〇に関しては〇〇歯科医院はレベルが高いらしい」。こうした評判が地域に定着したとき、医院ブランドが確立されていきます。そのブランドは、大規模医院には真似できない中規模医院固有の強みになります。次回はシリーズの締めとして、都市部の中規模医院が今すぐ打つべき経営の一手を論じます。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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