インフラには「維持できる人口規模」がある
人口減少と高齢化、人材不足による経済や地域へのマイナスの影響が全国で深刻になりつつあります。もちろん、医療機関も例外ではなく人口減少とそれに伴う国の医療政策の影響を受けるのです。
国土交通省の調査によると、百貨店や救命救急センター、大学などのインフラ施設が一定の確率で継続して存在するためには、それぞれ固有の人口規模(マーケット)が必要とされています。人口が多いほど多様なインフラが維持され、人口が少なくなるほど維持できるインフラの種類は限られていきます。
ここで重要なのは、人口の絶対数だけでなく「その人口がどう分布しているか」です。自治体の人口が20万人あっても、広い地域に人が分散して住んでいれば、地域全体を同じように活性化するのは難しい。逆に人口規模がそれほど大きくなくても、近隣に大きな都市があり移動時間が短ければ、そのインフラを併用でき利便性は保たれます。
例えば大阪市周辺の自治体を例にとると分かりやすい。周辺自治体が独自に三次救急や大型初ピングモールを維持できなくても、大阪市中心部までの交通利便性が高ければ、そのインフラを利用できます。梅田・難波・天王寺といった中心部へのアクセスの良さが、周辺自治体の「豊かさ」を下支えしているのです。一方、大阪府内でも中心部へのアクセスに時間がかかるエリアや、多くの地方都市では、地域単独でインフラを維持できる人口を割り込むと、地域の豊かさが失われていく確率が高くなるのです。
「臨界点」を超えると、何が起きるか
人口減少は一様に進むわけではありません。段階があります。人口が増加している段階、微増の段階、減少期1、減少期2、そして減少末期。この段階ごとに、年少人口・生産年齢人口・高齢人口の総数と構成が変わっていきます。
注目すべきは高齢者人口の推移です。減少期1の段階では高齢人口はまだ増加を続けています。この段階では、地域の消費や医療需要という観点では、まだ大きな崩れは起きません。しかし高齢人口自体が減少に転じる減少期2以降になると、状況は一変します。全世代の人口が減り始め、地域が急速に活気を失っていきます。日本全体で言えば高齢者人口が減少に転じるのは2040年ごろですが、地域によってはすでに全人口が減少するステージに入っているのです。
先生の医院が開業している地域は、この五段階のどこに位置していますか。まだ高齢人口が増えている段階なのか、それとも高齢人口さえも減り始めているのか。この違いが、今後10年の経営環境を大きく左右します。
何が地域の「臨界点」を決めるのか
地域が豊かさを保てるかどうかを決める要素は複数ありますが、特に重要なのは公共交通機関の維持と、その運行本数です。交通の利便性が失われると、住民の移動が制限され、地域内外への通勤や消費活動が難しくなります。
もう一つの核となる要素が、地域のショッピングモールや医療施設が維持できるかどうかです。生活の拠点となる商業施設や、安心して受診できる医療機関が地域に存在し続けることが、住民がその地域に留まる理由になります。これらが失われ始めたとき、地域の活性が失われる臨界点に近づく。そして臨界点を超えると社会的人口移動が一気に加速して、移動できない人だけが地域に取り残されるのです。
自院の診療圏を分析する視点
私が診療圏の将来性分析のご依頼を頂いた場合は、複数の視点から地域を見ます。人口動態、人の流れ(駅の乗降者数、通勤者数、昼間人口、生活動線)、住民層(学校や保育所の状況、マンションタイプ、平均所得や教育水準)、そして地域経済(地域の経済政策、企業の出店・撤退の動向)だけでなく、可能な場合には実際に地域を歩いて状況を確認し地域と医院の未来を見極めるのです。先生がご自分で調査をおこなう場合には限界があるでしょうが、出来れば平日のお休みの日に診療圏を歩いて変化を確認されることをお勧めします。
先生の医院がある地域は、各種インフラを維持できる人口規模を満たしていますか。それとも隣接する大きな都市の利便性を享受できる立地にありますか。次回は、こうした経営環境の中で最も見落とされがちな要素、人材採用の可能性について論じます。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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