「問題児」と聞いていたスタッフが、一番医院のことを考えていた
スタッフが思うように動かないとき、院長はその原因を「やる気がない」「意識が低い」に帰してしまいやすいものです。しかし私が実際に面談をしてみると、多くのスタッフが成長への意欲を持ち、医院を良くしていきたいと考えています。院長が「問題児」と捉えていたスタッフと私が面談してみると、実は誰よりも医院のことを真剣に考えていたという経験は、現場で一度ならずあります。
スタッフが動かない理由は、意欲の問題ではないことがほとんどです。動きたいという気持ちはある。しかし動けない何かが存在している。その「障害」を特定しないまま、研修を増やしたり叱咤激励を続けたりしても、状況は変わりません。
コーチングの視点では、人が動けない理由を「考え方・姿勢」「行動」「知識・技術」の三つの軸で捉えます。どの軸に障害があるかによって、必要な対応はまったく変わります。
「考え方」の障害。実は、ほとんどのスタッフは動きたいと思っている
特定のスタッフのやる気が無いと院長が感じているとき、その多くは誤解である可能性があります。スタッフと丁寧に話してみると、成長意欲があり、チームへの貢献を望んでいるスタッフも多い。
では、なぜ「やる気がない」様に見えるのか。それは、スタッフが院長の期待する行動の意味や上手くいくやり方を知らない、あるいは動こうとしたときに何らかの壁にぶつかってきた経験が積み重なっているからです。「考え方」の問題ではなく「知識・技術」「行動」に課題がある可能性が高い。だから改善のアプローチは「正しい原因」を見つけて行う必要があるのです。
先生の医院で「やる気がない」と感じているスタッフと、最後に一対一で話したのはいつですか。その時、無理やり動かそうとしませんでしたか?
「行動」の障害。心理的安全性と権限が、行動の量を決める
行動を起こすことが苦手なスタッフは確かにいます。しかし行動できない理由の多くは、スタッフ個人の特性だけにあるのではありません。心理的安全性と権限という環境要因が、行動の量を大きく左右します。
心理的安全性が低い職場では、スタッフは「失敗したらどうなるか」「変なことを言ったら評価が下がるのでは」という不安から、自分から動くことを避けます。権限が院長に集中している医院では、スタッフが改善しようとしても「院長の許可が必要」という壁に何度もぶつかるうちに、提案することをやめてしまいます。
こうしたスタッフに必要なのは、叱咤ではありません。レールを敷くことです。「こういう流れで進めてください」「この範囲は任せます」という具体的な道筋と限定的な権限が与えられると、行動を起こすことが苦手だったスタッフが動き始めることは、現場で何度も経験しています。
「知識・技術」の障害。教えながら任せていますか
知識や技術が足りないスタッフが動けないのは、当然のことです。問題は、教えないまま任せようとするケースがあることです。「教えながら任せる」が機能していない医院では、スタッフは「何をどうすれば良いか分からない」という状態のまま放置されます。
また、学ぶ環境と話し合う環境が整備されていないと、スタッフの成長欲が刺激されません。勉強会の機会があるか、疑問をぶつけられる先輩や仕組みがあるか、学んだことを実践で試せる場があるか。こうした環境が整っているかどうかが、スタッフの成長速度を決めます。
知識・技術の障害は、スタッフの問題ではなく、医院が学びの環境をつくれているかどうかの問題です。
毎日1%の成長負荷が、スタッフを動かす
スタッフが動かない医院になる根本的な理由を一言で言えば、適切な成長負荷がかかっていないことです。負荷がなければ人は成長せず、成長しなければ動ける範囲も広がりません。
ケニアのマラソン選手が世界トップクラスの記録を出し続けるのは、高地という環境で生活することで酸素が薄い状況への適応力が自然に身についているからです。そしてその強みを活かすために、多くの選手が日々の陸上トレーニングを積み重ねています。環境が人を育て、積み重ねが力を生む。これはスタッフの成長にもそのまま当てはまります。
毎日1%の成長負荷がかかる環境に適応したら、プラス1%の負荷をかける。この積み重ねが、スタッフの動ける範囲を少しずつ広げていきます。最初から大きな権限を渡そうとするのではなく、小さな負荷と成功体験を積み重ねる設計が、スタッフを動かす仕組みの本質です。
障害を除去し、土台を整える。それが院長の仕事
スタッフが動き出すためには、動くことへの障害を除き、動くための土台を整えることが必要です。考え方の障害には、丁寧な対話と環境の見直しで応える。行動の障害には、心理的安全性の醸成とレールの設計で応える。知識・技術の障害には、学びと実践の環境づくりで応える。
そして、スタッフが動き始めたとき、院長はその動きを止めないことが最も重要な関与です。「一度バトンを渡したら戻さない」。この覚悟がなければ、せっかく動き始めたスタッフはまた止まります。
院長がスタッフの障害を見つけて除去する。足りないものをサポートする。そして動き始めたら信じて待つ。この三つが、院長が頑張らなくても動き出す組織をつくるための、本当のアプローチです。
まとめ
スタッフが動かない理由は、やる気や意識の問題ではないことがほとんどです。考え方・行動・知識技術の三つの軸で障害の所在を特定し、それぞれに応じた支援をすることが必要です。考え方には対話と環境、行動には心理的安全性とレールの設計、知識・技術には学びと実践の場が対応します。そして適切な成長負荷を毎日少しずつかけ続けることが、スタッフの動ける範囲を広げていきます。院長の役割は、障害を除去し、土台を整え、動き始めたスタッフを信じて待つことです。
先生の医院のスタッフが、自分から動き出す環境をつくるお手伝いができれば幸いです。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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