歯科医院経営コンサルタントの森脇康博です。
歯科医院経営では
どういった患者層に喜ばれる歯科医療を提供するかで、開業場所も設備も治療内容もコミュニケーションシステムの構築もまったく違ったものになります。
だから先生にとって大切な治療(歯内療法、歯周病、デンチャー、咬合、インプラントなど)があるなら、その治療のニーズがある場所で開業していないと苦戦することになります。
・その治療サービスの診療圏は広いのか狭いのか?
・地域環境は将来どのように変わっていくのか?
・地域社会、地域医療介護ネットワークに必要とされるコンセプトなのか?
・診療圏の患者層にとって魅力的な治療コンテンツになっているか?
・その治療コンテンツの魅力を目指す患者層に伝える手段は準備できているか?
・設定する診療圏にある競合歯科医院との違いを患者が認識するか?
・目指す患者層が満足できる環境を院内で創れているか?
多くの歯科医院の開業では成功歯科医院をモデリングした戦術から入ります。ホームページで表現する「理念」も見た目は綺麗ですが、深みを感じられないものになるのは、院長として地域医療に関わった経験がないので、はじめのうちは仕方がないのかもしれません。
歯科医院経営の壁とは
開業医団体勤務時代から1500件を超える歯科医院を見てきた経験から書いてみたいと思います。
歯科医院の保険の売上の全国平均は4000万円程度です。
歯科医院経営の一つ目の壁は、借入金返済の目処がついて院長がホッとする頃です。「この頃に車を新しくしたい」「家を建てたい」という欲求が出てきます(悪い事ではありませんが・・)。
二つ目の壁は租税即別措置法の概算経費率の適用範囲である5000万円です。税金を減らしたいという心理から保険診療を5000万円以内に抑えたいという院長が多いのです。
三つ目の壁は売上8000万円を超えたあたり。今までの院長一人の頑張りでは売上が上がらなくなります。スタッフの行動にイライラしてマナー講師を招いたり、閉塞感から新しい医療機器を導入したりします。
四つ目の壁は売上1億円を超えスタッフ数が増えてきたあたりです。院長一人の頑張りでは限界があることを実感していますし、売上が少し減るとスタッフの行動にイライラしだします。チーフを決めたりしてスタッフをまとめようとしますが、リーダー経験の浅いスタッフであれば
①院長の言葉を代弁するリーダーになる
②スタッフの要求を院長に伝えるリーダーになる
③チームを前進させるよりはチームの平和を優先するリーダーになる
④チーフの地位でスタッフをコントロールするリーダーになる
ということが起こります。
経営的に成功している院長が集まる場にも出向くようになりますので、売上だけではなく医院のステージを意識しだして、スタッフの質、滅菌・印象などの質を高めたいという気持ちが高まってきます。
五つ目の壁は組織化の壁です。
売上が2億を超え、チーフもいて売上も増えていますが、売上の伸びに組織の成長が追いつかなくなるのです。
院長やチーフだけでは隅々まで目が届かなくなり、連絡事項、ミーティングでの決定事項の周知徹底が十分ではなくなります。
一般的に30人までなら院長一人で見れると言われていますが、30人を超えてから急に組織づくりを始めても間に合わないので、その前から段階的に権限の委譲によりスタッフの自責意識を育てなければならないのです。
スタッフ採用ではどこのポジションを強化するかという意識が大切です。サッカーで言えば「中盤の攻撃的な選手が足りない」なら、そういうスタッフを採用する必要があるのです。
歯科医院でもこのバランスが崩れていればGOALを決める事ができません。
あと、組織化で間違えてはならないのは「スーパーチーフ」を生み出してはならないということです。院長やスーパーチーフの個人力に依存する組織はリスクが大きく脆いからです。事務長も積極的リーダーシップによりメンバーを依存させるタイプの人は問題を起こすようになりますので要注意です。
スタッフを計画的に成長させて権限を委譲する、権限を特定の人に与えるのではなく、受けとった権限を下に送っていける組織が強い組織です。スキルだけではなく人として歯科医療従事者として成長せることを仕組化していく、長い旅の始まりです。
理念への浅い理解が院長を苦しめる
歯科医師としての信念を基に歯科医院経営をやってきた院長は別にして、戦術(モデリングや経営手法)を基に現在の歯科医院を構築してきた院長は、ここで最大の壁にぶつかることになります。
最後の壁、それは「理念の壁」です。
実は理念はホームページをキラキラしたものにするツールではなく、開業という船出をした院長の船に乗りたいという「患者」と「スタッフ」を集める装置なのです。
アニメ「ワンピース」の「俺は海賊王になる!」というルフィーの言葉に仲間の心が震えたように、先生の船に乗りたいと思う人を集めなければなりません。
中規模以上の歯科医院で働くスタッフが退職を決意したときに言う言葉をご存知でしょうか?
それは
「院長を尊敬できません」という重い言葉です。
規模が大きく質の高い医院ほど、健康意識の高い患者が集まり、歯科医療従事者として成長したいと考えるスタッフが集まります。
逆も言えます。結局、医院のレベルに合うスタッフや患者しか集まらないのです。
院長は集まってくれたスタッフや患者を魅了し続けなければならない。
そして目指す場所を指し示して、仲間を鼓舞しなければならないのです。
成長意識の強いスタッフと個人面談をすると、院長と同じことを話しますし、自分自身のビジョンもしっかり持っています。
大型船に例えると、自律した組織では船長は機械室などのことには口出ししなくても良くなり、目的地を見据えてどちらに舵を切れば良いのかだけを考えればいいようになります。機械室に問題があれば船員が解決してくれますし、権限を超える問題は副船長が解決してくれるからです。
長い旅です。でもビジョンの達成にとって必要な旅です。
最近は、開業時から理念がしっかりしている院長が増えてきました。
一方、理念はしっかりあるが、スタッフと患者を守る為に不可欠な歯科医院経営についてのスキルがない院長が圧倒的に多いと感じています。
「程々の歯科医院でいいです」と仰る院長もいらっしゃいますが、程々の志の船(医院規模ではありません)に乗りたいというスタッフは成長への意識が弱く、集まる患者の健康観は低いのです。
先生の船に乗って欲しい患者は誰ですか?船に乗ってくれた患者を幸せにする為にどんなスタッフを集めますか?
船長は先生です!
先生の信念を地域に伝えなければ、船に乗る患者は増えませんし、船に乗って院長と未来を実現させたいというスタッフも集まってはこないのです。
テーマ:歯科医院経営全般
Posted at 07:39