はじめに
「AI Overviewsに引用されるようにコンテンツを最適化すべきだ」
SEOコンサルタントから、そういう提案を受けた院長もいると思います。Googleが検索結果の上部にAIによる要約を表示するようになったことで、「そこに医院の情報が載るようにする」という新しいSEO施策が登場しました。
しかし、ここで立ち止まって考えてほしいことがあります。AI Overviewsが表示されるのは、Google ChromeやGoogleの検索画面を使っているユーザーです。前回、シリーズ1でお伝えしたように、若い世代の情報収集はTikTok・Instagram・ChatGPTへと分散しています。そもそもGoogleで検索しない患者層に対しては、AI Overviewsへの対策は意味をなしません。
今回は、GoogleのAI化が実際に何をもたらしているかを整理した上で、ポータルサイト依存の集患戦略がどこへ向かうのかを考えます。
AI Overviewsとゼロクリック問題:何が変わったか
Googleは2024年からAI Overviews(AIによる概要)の提供を開始し、2025年9月からは日本でもAIモードの提供が始まりました。検索結果の上部にAIが生成した要約が表示され、ユーザーはその要約を読むだけで知りたいことを得られるようになっています。
これが「ゼロクリック問題」を加速させています。ゼロクリック検索とは、ユーザーが検索結果ページ上で答えを得てしまい、どのWebサイトもクリックせずに検索を終える現象です。調査によれば、Google検索の約60%がWebサイトへのクリックを伴わずに終了しており、モバイルデバイスでは77%以上がゼロクリックに至っているというデータもあります。
「検索1位を取ったのにアクセスが減った」という声が増えているのは、この構造が原因です。SEOに投資してホームページを上位表示させても、AIが要約を出してしまえばユーザーはサイトを訪問しません。SEOへの投資効果が以前より得にくくなっているのは、数字が示す現実です。
ただし、ここで誤解してほしくないことがあります。「Googleはもう意味がない」という結論は早計です。Googleでの検索行動自体がなくなるわけではありません。特に40代以上の患者層はまだGoogleを主に使っており、ホームページのSEO対策は引き続き一定の効果を持ちます。変わったのは「SEOだけに依存する戦略のリターンが下がった」という現実です。
「ChromeでなければAI Overviewsは関係ない」という盲点
もう一つ、先生に知っておいてほしい重要な事実があります。AI Overviewsが表示されるのは、GoogleのChromeブラウザや、Google検索を使っているユーザーだけです。
2025年の日本のスマートフォンブラウザシェアを見ると、SafariとChromeがほぼ拮抗しており、この2ブラウザで約94%を占めています。日本はiPhoneの普及率が高く、iPhoneの標準ブラウザはSafariです。iPhoneを使っている若者の多くは、意識せずSafariでネットを見ています。Safariの標準検索エンジンはGoogleですが、ブラウザの操作感やデフォルトの動線がChromeとは異なります。
さらに前回お伝えしたように、若い世代の情報収集の入り口はInstagram・TikTok・ChatGPTです。そもそもGoogle検索を開かない若者にとっては、AI OverviewsへのSEO対策はまったく関係のない話になります。
「AI Overviewsに引用されるよう対策を」という提案は、Googleで検索する患者層には有効かもしれません。しかし、先生の医院がこれから獲得したい20代・30代の患者層のうち、どのくらいがGoogleで「地域名+歯科」と検索しているかを、まず考える必要があります。入り口が違えば、対策も違います。
ポータルサイトの集患力はどこへ向かうか
歯科のポータルサイトの集患力についても、整理しておきましょう。
ポータルサイトが集患に機能してきた理由は明確です。「地域名+歯科」でGoogleを検索すると、検索結果の上位をポータルサイトが占めるからです。個々の歯科医院のホームページよりもドメインパワーが強いため、ポータルサイトに掲載するだけで検索上位に表示される恩恵を受けられました。
しかしこの構造は、GoogleのAI化と若者のGoogle離れによって、二つの方向から侵食されています。一つは、AI Overviewsが検索上位に表示されることで、ポータルサイトの掲載順位自体の意味が薄れること。もう一つは、そもそも若い世代がGoogleでポータルサイトを経由して歯科医院を探すという行動をしなくなっていることです。
加えて、ポータルサイト経由で来院する患者の質という問題もあります。ポータルサイト経由の患者は「今すぐ痛みを取りたい」という急患動機で来院する患者が多く、継続的な定期管理に移行しにくい傾向があります。新患数は増えても、医院の長期的な収益基盤であるかかりつけ患者の積み上げにはつながりにくい。「ポータルサイトを契約したら変な患者が増えた」という事例が出てきているのは、この構造が背景にあります。
ただし、ポータルサイトがすぐに無価値になるわけではありません。予約機能としての利便性、40代以上の患者層へのリーチとしての有効性は、当面残ります。「認知獲得の主役」から「予約導線のひとつ」へと位置づけを変えながら、活用方法を見直すタイミングに来ているということです。
では、今から何を設計するか
GoogleのAI化とポータルサイトの変容が示すのは、「一つの集患チャネルに依存する時代の終わり」という現実です。では院長は今から何を考えるべきか。
一つ目は、ターゲット患者層と情報収集行動の対応関係を整理することです。40代以上の患者が中心であればGoogleでのホームページ戦略はまだ有効です。20代・30代を増やしたいのであれば、Instagram・TikTokでの情報発信が入り口になります。患者層によって有効なチャネルが異なります。
二つ目は、「指名検索」を増やす戦略への移行です。「地域名+歯科」という一般検索でヒットすることを目指すのではなく、「〇〇歯科」と医院名で直接検索してもらえるブランド力を育てることです。口コミ・SNS・患者紹介で医院名が広がれば、検索エンジンの変化に左右されにくくなります。これはまさに、前シリーズでお伝えした「かかりつけ患者との関係を深める」という経営方針と同じ方向を向いています。
三つ目は、ChatGPTやGeminiに「近くの歯科医院」として参照されやすくする情報設計です。AIが医院情報を参照する際には、Googleマイビジネスの情報整備・口コミの質と数・医院ホームページの構造化された情報が重要になります。これはSEO対策の延長線上にありますが、「AIに読まれやすい情報」という観点での設計が必要です。
まとめ
GoogleのAI化は、既存のSEO投資のリターンを確実に変えています。ゼロクリック問題は現実のものとなり、ポータルサイトの集患における役割も変化しつつあります。しかし同時に、若い世代はそもそもGoogleという入り口を使わないという、より根本的な変化も進んでいます。
集患戦略の見直しは、「何を使えばいいか」というツールの話ではなく、「誰に、どうやって医院の存在と価値を知ってもらうか」というブランディングの問いに行き着きます。
次回、シリーズ3では、2030年以降にAGI・次世代通信インフラ・量子コンピュータが社会に実装され始めたとき、集患の常識がどのように根底から変わる可能性があるかを、「確認できる事実」と「合理的な予測」を分けながら整理します。
先生の医院のこれからを、心から応援しています。
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